第1章 (2)出会う

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 「康士様、あちらにいらして。  わたくしのピアノを聴いていただきたいの。  今日のために、たくさん練習したのですもの」  蓉子さんは私の存在など無視して、壬生様の腕に自分の腕をからめる。  「では、私はこれで失礼いたします」  私は何か言いたそうな壬生様に向かって言い、邸内の方へ歩き出す。  「お寿々!」  掃き出し窓から兄が顔を出して呼んだ。  「こんなところにいたのか…神田様もお待ちだぞ」    私は「ごめんなさい」と言いながら兄に近づいた。  後ろから「寿々さん!」と壬生様の声がして、私と兄は振り向く。  「また、お会いしましょう」  壬生様は蓉子さんにまとわりつかれながら、私に手を振った。  私はどうしていいか判らず、とりあえず頭を下げる。  「え…なんだ、壬生様となにかあったのか」  兄は大広間に戻りながら、驚いたように私に訊いた。  私は「少しお話しただけ。ミルクティを飲む間だけ」と答えて「もう帰りたい」と兄を見上げる。  「うん、もう帰ろう。  神田様にご挨拶してからだな」  言いながら兄はもう一度振り返る。  「ところで、壬生様と一緒にいらしたご令嬢は…  松ヶ崎男爵の姪御さんだよ。  男爵のご縁で仲が宜しいんだろうな」  「青木子爵様の周りはすごい世界だな、本当に。  少しでも食い込みたいよ、田舎者なりに」  興奮したように話す兄を見て、私は重いため息を吐いた。  私はもう二度とごめんだわ。  こんなに華やかな世界は私には似合わないし、田舎者だからってバカにされるのもからかわれるのもうんざり。  ミルクティは、とても美味しかったけれど。
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