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私は頭を振って雑念を追い払い、自分の両手を握りしめて言葉を選びながら口を開く。
「私のような者には過ぎたお話で…どうお返事してよいか判りません。
申し訳ありませんが、少しお時間をいただけますでしょうか」
加藤様はほっと息を吐く。
「そうですね…お父上からまったく聞いていらっしゃらなかったようだから。驚かれたでしょうね。
判りました。良いお返事を期待しながらお待ちしますよ」
うう…言外の圧力がすごい…
私は深く頭を下げた。
そりゃそうだよね、もともとこっちから言いだした話なのに、待てっておかしいよね。
父が決めた縁談なのだから、私に選択の余地がないのも判ってるけど…
「さて、では中を見学しましょうか。
お父上にお願いして、少し二人で話す時間をいただいたのですが、そろそろしびれを切らしておられるのではないかな」
加藤様は優しく笑って、私の手を取って正面の方へ案内してくれる。
優しい方だな…怒っても当然なのに。
私はおとなしく手を引かれて、並んで歩いて行った。
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