第2章 (2)再会

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1.  「製糸所と言えば、群馬の富岡や新潟の米沢などが有名ですが、ここ那須にも立派なのがあるのですよ。  私は、那須開墾社でこの辺りの土地の素性をいろいろと調査しましたが、那須疎水ができたこともあり、桑の栽培については小山と同じように那須でもできるのではないかと考えています」  製糸所の管理人さんは父と顔見知りのようで二人で何やら話し込んでいて、ご自由にどうぞという感じだったので、仕方なく私と加藤様は二人で館内を回る。  石造りの重厚な建物は、明かりが少ないこともあって薄暗くて怖かった。  加藤様は私の歩調に合わせてゆっくり歩きながら様々な話を聞かせてくれた。  「…加藤様は、何故、那須開墾社に?」  私は疑問に思って尋ねた。  華族様でもない、東京のそこそこ名の知れた商社のご子息がどうして、那須の開墾などに携わっておられるのだろう。  「ああ…それはですね」  と少し照れたように加藤様が話してくれたのは驚くべき内容だった。  東京府の学校に在学中に、商業以外に工業や農業にも興味を持った加藤様は、幅広く勉強をしていたそうだ。    卒業後、お父様の会社に入るつもりだったが、そのころちょうど那須野の開拓が官民両方で始まり、華族様の農場が次々に開かれ、那須開墾社という組織ができた。    国家の事業に食い込み、会社の扱う商品を増やしたかったお父様は、農業や工業にも詳しい息子の加藤様を那須開墾社に「投資」なさったのだという。  「まあ、ずいぶん乱暴な父親だと思われるでしょうが…  私が商業より、そういう方に向いていると判断したのかもしれません。  実際、生糸の生産や絹織物、それを支える工機の開発などに深い興味を覚えます」
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