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その後、女工さんたちが働いている場所を見学し、私はその高度に機械化された工場に衝撃を受けた。
これが…明治となった御世の、進むべき方向なんだ…
煮繭という作業は、規模は大きいが私が家でやっているのと大差なかったが、紡績の作業やそれにつながる染色・機織り(うちでは生糸を紡ぐまでしかやっていない)などの工程では、機械がふんだんに取り入れられ、大勢の女工さんが並んで一心に作業に取り組んでいる。
「ここまでのものはなかなか難しいでしょうが…
できるだけこれに近づけていきたい。
それには寿々さん、あなたの協力が不可欠だと思っています」
並んで一緒に作業を見ながら、加藤様は熱っぽく言う。
私は曖昧にうなずいた。
私に…こんなことできるだろうか。
加藤様と一緒なら、できるのだろうか。
工場長という人が来ていて、昼食を共にして、仕事のある加藤様は先に帰って行った。
父はまだ少し工場長と話があると言うので、私は一人、建物の周りをまわってみる。
先ほど、加藤様から求婚されたとき…
何故、壬生様の顔が思い浮かんだのだろう。
青木様宅で一度お会いしただけの、もう二度と会うこともない方なのに。
『またお会いしましょう』なんて、最後に仰っていたけれど…
誰にでもああいうことを簡単に言うのだろう。
こんな洋館のようなレンガ造りの建物を見たから、壬生様が想起されたのかな。
そう思いながら建物の角を曲がった時、表の通りに馬車が停まるのが見えた。
青木家の家紋のついた馬車から降りてきた、洋装で山高帽を被った背の高い紳士は…
本物の、壬生康士様だった。
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