第2章 (2)再会

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 その後、女工さんたちが働いている場所を見学し、私はその高度に機械化された工場に衝撃を受けた。  これが…明治となった御世の、進むべき方向なんだ…    煮繭という作業は、規模は大きいが私が家でやっているのと大差なかったが、紡績の作業やそれにつながる染色・機織り(うちでは生糸を紡ぐまでしかやっていない)などの工程では、機械がふんだんに取り入れられ、大勢の女工さんが並んで一心に作業に取り組んでいる。  「ここまでのものはなかなか難しいでしょうが…  できるだけこれに近づけていきたい。  それには寿々さん、あなたの協力が不可欠だと思っています」  並んで一緒に作業を見ながら、加藤様は熱っぽく言う。  私は曖昧にうなずいた。  私に…こんなことできるだろうか。  加藤様と一緒なら、できるのだろうか。  工場長という人が来ていて、昼食を共にして、仕事のある加藤様は先に帰って行った。  父はまだ少し工場長と話があると言うので、私は一人、建物の周りをまわってみる。  先ほど、加藤様から求婚されたとき…  何故、壬生様の顔が思い浮かんだのだろう。  青木様宅で一度お会いしただけの、もう二度と会うこともない方なのに。  『またお会いしましょう』なんて、最後に仰っていたけれど…  誰にでもああいうことを簡単に言うのだろう。  こんな洋館のようなレンガ造りの建物を見たから、壬生様が想起されたのかな。  そう思いながら建物の角を曲がった時、表の通りに馬車が停まるのが見えた。  青木家の家紋のついた馬車から降りてきた、洋装で山高帽を被った背の高い紳士は…  本物の、壬生康士様だった。  
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