カウント10

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 その絵は欧州の近代の作品を集めた美術展の中の一つで、初めて観たのは一週間前。秋冬コレクションのアイデアを求めて訪れた。それから今日で3回、足を運んでいる。  少なくとも会社を抜け出すので、同僚の長見育代だけにはそう説明してあった。彼女は会社の同僚であると共にかけがえのない親友である。  なぜかその肖像画を観たくてたまらなかった。堅牢な貴族の顔は30代くらい。黒いベルベットの上着を纏い、しなやかな革の手袋をしている。  肖像画の主が誰なのかはわからない。絵の説明書きによると紀元1500年代に無名の画家によって描かれたものだという。  私が生まれるかなり昔の絵だ。でもなぜか絵の中の人物をよく知っているような気がしてならない。まるでずっと昔からの知り合いのような……。  もちろんそんなことはあるはずがない。数世紀もの時の隔たりがあるのだから。
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