カウント10

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 家に着くとすぐに手洗いとうがいを済ませ、夕食の支度をするためにキッチンに向かった。  手早く和範のお気に入りのハンバーグを作って行く。材料をこねながら、私はふっと夫の正好のことを思い出す。  夫は彼の父親である徳沢孝次と仲違いした後、母親から時々、手紙がくるくらいだった。彼は実家との縁を一切、切ってしまったのだ。夫とその父親との不和は夫がカーレーサーという職業を選んだことが原因だったらしい。会社の最高経営責任者であり、筆頭株主でもある徳沢孝次はカーレーサーなどは遊び人の道楽に過ぎないと罵倒した。夫の方も家業を継ぐつもりはないと突っぱねた。父親から勘当され、事故に遭っても身内からのお悔やみの言葉も届かなかった夫のことを思うと、胸が締め付けられて切なくなってくる。
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