ショウマストゴーオン 2

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ショウマストゴーオン 2

ショウマストゴーオン 2 銀(ぎん)がこの家に召喚されて数日は、まさに光のように毎日が慌ただしく過ぎ去った。 奴は、こちらの言っている事は理解できるようだったが、こちらの言葉を話す事はできないらしく、何を話しかけてみても、いつも怒ったような口調の、オレやるうさんの判らない言語で返すので、オレたちは困り果てた。 「式神として使うだけならこちらの言葉が理解できるだけでも足りるのだが」 と、るうさんは言ったけれど、それじゃあオレはつまらない。せっかく友達になれそうな感じだし、大変とは思いながらも、オレは銀に少しづつ言葉を教える事にした。 そう、銀とはオレがつけた魔物の名だ。 何故銀かというと、普段は短髪の小僧の姿をしているが、時々奴は本来の、龍の姿になって部屋を飛び回り、オレを驚かしたりする。小僧のためか、その龍もまだまだ片腕に絡まる位の小さい姿なのだが、それが鈍い銀色の鱗でなかなかかっこいいので、オレは銀と名前をつけた。 銀はこの頃てるれびじょんという機械が好きで良く見ている。真ん前に陣取り瞳をキラキラさせていたかと思うと、欲しい物でも映ったかおもむろに洗濯物を畳んでいたオレの所へ擦り寄ってきた。 「けーい、ケイ、これ!」 銀が、オレの名前を覚えるのに約三日かかった。 そして、オレが銀に、銀という名前をつけたのだという事を理解させるのに更に一週間を要したが、それはまだましな方だったのだろう。 「これ、ケイは仕事をしておるのだ、邪魔をするでない」 るうさんは銀を見、たしなめたが銀はいつもの如く怒った口調で文句を返すとオレの肩に鼻先を押し付けた。 銀はいまだるうさんの名前を覚えていない。 るうさんは不満げな顔で、てるれびじょんに視線を写したのでオレも画面を見た。そこでは今ばれんたいんの日にあげるチョコレートの作り方の番組をやっていた。 銀は熱い瞳でオレを見ている。 どうにかして「あれは男の子二人の行事ではないのです」と伝えたかったのだが、生憎オレには伝えられるだけの意思疎通力がない。オレは銀を連れて街のお菓子屋さんに行く事にした。 ++++++++++ お菓子屋へ行って、適当なチョコの包みを銀に見せてあげたが、銀はいやいやと首を振り、オレに向かい特設コーナーをを指差した。 オレは、まさか手作りでチョコを作れとでも言うのだろうか、いやいやまさか……と薄笑いを浮かべながら銀を見たが、奴はそんなオレの引きに動じる事なく大きく頷くと甘えた瞳をして見せた。 どうしよう……オレは呆然と並べられた型抜きやらラッピング用品やらを眺めた。オレが奴の期待に応えないと、もしかしたら奴は今の従順な態度を崩して暴れまわり、家中をぐちゃぐちゃにしてしまうかもしれない。 そしてオレはるうさんに叱られながらその片付けをしなくてはならないのだ。 オレはその想像を打ち消すようにぶんぶんと首を振ると、がっと型抜きを掴みあげた。 「あんまし、うまくできないと思うよ」 それでも銀は上気した頬でオレを嬉しそうに見つめている。オレは銀の期待があまりにも大きい事に内心おののいていた。 もし銀の気に入らなかったらどうなってしまうのだろう? 実はオレは、料理などしてみた事がないのだった。 ++++++++++ それからは数日キッチンで格闘に明け暮れた。 一体何が悲しくて男の子のオレが健気にチョコ作りに励まなくてはならないのだ?それをるうさんに愚痴ったらるうさんはしれっとして、 「厳密にはお前は人形であって性別はないのだから良いではないか」 などとフォローにもならない事を言った。銀は手伝いたいのか、オレの背中に纏わりつき邪魔をするので、 「向こうで待ってなさい!」 と叱るとすごすごと居間へ戻りまたてるれびじょんを見始めた。今はわいどしょうで「素敵な告白の仕方」というコーナーをやっていて銀はそれにあわせて発音練習をしていた。オレはとっても気まずい感じがしたが、気付かないフリをしてチョコ作りを続けた。 形ばかり綺麗に箱に入れて渡してやると、銀は照れたように笑ってまた少し判らない言葉を話したのち、たどたどしく、 「ケイ、だいすき」 と言った。 オレは、今まで全く意識した事など無かったのに、不覚にもそう言われたとたん顔が熱くなるのを感じた。 顔が赤いかしらと心配しながら銀を見ていると、銀は包みをばりばりと開け食べ始めたので、どうにかうまくできたのだ、とほっとしオレも一口貰って食べてみて仰天した。 何でこんなにまずいのだ!?ちゃんと本を見たはずなのに! ……ああ、銀はきっとこれがチョコレートという物の味だと覚えてしまうだろう。オレは隣でおいしそうにチョコを食べている銀をよそに、ぐったりしながらるうさんを見た。 るうさんはオレ達に気を使ってか、離れたキッチンに居たが一口余りのチョコを食べ、 「うわあっ」 と言うとオレを睨んだ。 オレは惨めさが増倍しそっぽを向くと、今まで夢中でチョコを食べていた銀がこちらを見ており、ふいに顔を寄せてきたかと思うと、オレの唇にぺったりと自分の唇を押し付けた。 オレは瞬間何が起きたのやら理解できなかったが、それが言葉のできない銀の気持ちなのだろうから、驚いたけれどじっと銀が離れるのを待った。 銀はこんなおいしくないチョコでも気に入ってくれた様子で、再び箱を漁り始めた。 オレはふっと息をつき、ますます熱くなった顔を押さえながら振り向くとるうさんがににーっと笑ってこちらを見ていた。
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