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ショウマストゴーオン 3
ショウマストゴーオン 3
オレはこの頃鏡で自分の顔を良く見るようになった。
何故だか銀はオレの事を気に入ってくれているらしい。
しかし総じて茫洋とした顔で、「優しそう」と形容する事はできてもお世辞にも綺麗な訳ではないオレの一体どこが良いのだろう?何でもてきぱきできる訳でもないし得意な事があるのでもない。
あ、もしかしてバカっぽいのが良いとかかしら……。
銀が意外と言葉の飲み込みが早いのには驚いたが、多少言葉はできるようになったものの人間のモラルや常識はてんで身についておらず、いまだフォークの使い方も怪しく、風呂に入るのも嫌がった。
別に汚い訳ではなく習慣の違いだと言えばそれまでだったが、オレは毎度ひっかかれたりしながら嫌がる銀を無理矢理風呂に放り込むのにぐったりきていた。
「一度一緒に入ってやれば良いのだ。そうしたら嫌がらなくなるかもしれない」
るうさんはあのばれんたいんの日から面白がって銀を応援するような事ばかり言う。オレは更にぐったりきたが、今日も風呂の時間になった。
試しに、
「銀が大人しくお風呂に入ってくれたら今度一緒におでかけしてあげるのになあ」
と可愛らしく言ってみると意外にも銀は目を光らせ、
「ほんとう?」
と尋ねてきた。
銀はてれびで、おでかけとは恋人同士が良くするもの、とか言っていたのをまた信じ込んだのか、しばらくぼっとオレを見ていたが、
「じゃあね、ケイも一緒!ちゃんと百かぞえるから、そしたらおでかけしてくれル?」
と言って飛び跳ねた。
オレはこの展開は大丈夫かと嫌な予感がしたが、別にペットを風呂に入れるのと同じだろうと思い込む事にした。しかし、こちらはペットと思っていても明らかに向こうの目付きは違っていた。
++++++++++
銀が身を竦ませて我慢している間にオレはがしがしと銀の髪と身体を洗って湯船に放り込んだ。すると銀は封印から解かれたように元気になって、すぐに身体を洗っているオレに手を伸ばしてきた。
「ねえケイはお人形さんなんでしょ?ここどうなってるの?」
銀がいきなりオレの脚を開かせるとその奥に泡のついた手を入れてきた。
何すんのこの子!
普通人間てこんな事すんの!?
オレが驚きのあまり固まっていると銀は少しおかしな顔をした。
「あれっ、ないや……ケイはどっちでもなくて綺麗な体だね」
くちゅくちゅと奥で動かしていた指を抜くと、今度は確かめるようにオレの全身を掌で撫でていく。オレの体にも泡がついてるから銀の掌はぬるりとした生き物の様だった。
何か怖くて嫌。やめてくれないかな……。
逆に銀は光惚とした満足げな顔で、続行しようと湯船からあがろうとした所で、急によろめき、ゆるゆると湯船の中に崩折れてしまった。
銀はのぼせて風呂場でぶっ倒れてしまったのだった。
るうさんと二人で笑いをこらえながらひきずり出し、身体を拭いて団扇で扇いでやってもしばらくはぼやーんとした顔をしていた。
もそもそと着替えをし、再びオレの膝に頭を乗せると非常にばつの悪そうな口調で、
「つぎ、次はね、ちゃーんとできるんだよ」
とオレを窺い見た。
そのしおれきった様子に先日のように再び胸がきゅんとなり、先程まで襲われていたのも忘れオレは銀の髪をわしわしとかき混ぜながら、
「もうとにかく馬鹿な事しないの!おでかけしたいならいつでもしてあげるから!」
と安請けあいしてしまった。るうさんは、
「おでかけするには食事のマナーもできないといかん、と言わないのか」
と言ったが、それはそれでどうにかごまかせる事なのではないだろうかと思った。
要は暴れたり突然変化したりしなければ。
銀はオレの言葉が聞こえなかったのか、依然赤い顔でうつらうつらとしていた。
銀の願いをきいてやりたいと思うのは、人形なのにオレの中に母性愛みたいなものがあるから?
それとも銀に恋をした?
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