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ショウマストゴーオン 30
ショウマストゴーオン 30
目を開けると、そこは見た事も無い豪華な部屋で、オレは大きくて屋根飾りのついた柔らかいベッドに寝かされていた。
壁は暮れてゆく赤い光のせいかやけに明るい色に見え、薄い緑のカーテンも射し込む光に透けて、細く開けた窓からの風に小さく揺れている。
周りの調度品は木目で統一されていて一見素朴なのだけれど、こまかな彫り物が施されていて良くよくみれば格調高い骨董品に見えなくもない。
るうさんの屋敷の裏庭一体はあろうかという一部屋の広さにつりあうには、それ位の価値はありそうな代物ばかりのように見えて、オレはこんな高価だろうベッドに寝ていてもよいものだろうかと落ち着かない気分になった。
しばらくそのまま部屋を見渡していると、少しづつ色々な事を思い出してきた。
この屋敷の事は初めて見るけど、ここは魔界でオレは造り主のるうさんの恋人さんと自分の兄弟に会いに来たんだ。
ああ良かった、壊れて記憶が無くなっていなくて。
気分も倒れる前よりはずっと良い。オレはベッドから降り、脇のソファに置かれてたトランクの中身を確認した。どれくらい眠っていたんだろう。
無くしたものも無いみたい……でも。
銀がいない。
オレは途端に怖くなり、胸にあった銀の首飾りを掴んで銀を強く心で呼んだ。けれど彼の鱗はちりちりと熱を放つけれど銀の姿も声も届けては呉れなかった。
銀が側に居ない事がこれ程こたえるとは、オレは泣きそうになりながら必死で銀を呼び求めた。
銀はどこに行ってしまったのだろう?
オレを護ると言ったのに、首飾りがあれば大丈夫と言ったのに!
その時、おもむろに足元に見えていた重そうな扉が開き、門の前で声をかけてくれた着物の優しそうな人が顔を見せた。
オレは反射的に飛び起きてトランクから鞭を取り出し身構えた。優しそうな着物の美人さんは別の、すらりとした長身のなかなか格好良いお兄さんと連れだっていて、オレの様子を見ると、
「やあ、怖いなあ。安心して何もしないから」
とのんびり言った。
もう一人の長身の方は涼しげな切れ長の目でオレをじろじろと眺めている。
着物の方が長身の方になにやら話しかけた。
何がどうだというのだ?
まさか本当に売られてしまうのだろうか?
オレは絨毯張りの床を思い切り鞭で叩き、二人を威嚇した。すると二人は予想以上に焦り、その絨毯の上を右往左往した。
「やあ、さっきまで倒れていたのに勝ち気な子だねえ。全く似ていやしないよ…… でも顔だけはそっくりだし、さっき一緒に居たのは龍の子だったねえ、向こうは私の事を覚えていないようだったけれど見た事あるもの」
ふと美人さんがそう言ったのをオレは聞き逃さなかった。もう一人のお兄さんはなにやら判らない言葉でそれに返している。
オレはもう一度鞭を振り、
「銀!銀はどこ!」
と二人に叫んだ。美人さんはやや気を落ち着かせた後、
「キミは、ケイだね?」
と愛想笑いと共にオレに問掛けた。
「本当にマアサにそっくりだね、まるで双子のよう」
マアサってオレの兄弟の名前?綺麗な名前。
「マアサが君の事を時々話すよ、ナルやマアサに会いにきたのだね?屋敷はどこだか判る?」
オレの兄弟の事を知ってる人がいた、でも今は銀の行方が知りたい。
こんなに呼んでいるのに来てくれないなんて、酷い子!
オレが殺気立っているのが見てとれたのか、
「うん、で、その君と一緒にいた子なんだけれど」
と美人さんが口ごもりながら切り出した。
「君が意識を無くした後ね、門の監理局の役人が何事かとやって来たのを、君達を捕まえに来たと勘違いしたのか暴れ始めてね。監理局の塔をぶっ壊しちゃって、地下の監獄へ捕まえられちゃったんだよ」
……オレは先程とは別の次元で眩暈を感じた。暗壜たる気持ちで絨毯に目を落とす。
いやでもそんな話嘘っぱちかもしれないし。
「あんなに強かったのに、捕まる訳ないよ」
「あの子は君達の世界でなら無敵の強い龍だけれど、ここではまだ子供扱いされる位の歳なんだよ。魔界監獄には強力な結界も張ってある。君が呼んでも来られないんだよ」
美人さんはそう言うと、
「あの子は君の式神だろう?……、龍なんだね」
「そうだよ」
「私が身柄を請け負っても良かったのだけど、生憎と、魔界監獄は私の領土ではなくてね。すんでの所で収監されてしまった。けれど、今なら龍嫌いの監獄のあるじが居ないから、ナルが頼めばなんとかなるかも。ナルの屋敷へ連れて行ってあげるから、彼の事を相談してみると良い」
オレに手を差し伸べた。
銀はオレの式神じゃないぞ、もう恋人だもん。オレはそう思ったけど黙っていた。 それよりこの人らに付いて行って大丈夫なんだろうか?銀は本当にそんな事したの?
銀はきっとオレが意識を無くしたのを見て、壊れてしまったと思ったんだ。そしてこの人達がオレを介抱してくれてたのをきっとさらわれていくのと勘違いしたんだ。だから暴れたんだ。
オレは逡巡した挙げ句、この人達に付いて行く事にした。
それしか方法が無かったからだ。
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