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ショウマストゴーオン 5
ショウマストゴーオン 5
「では、この札をこの地図の教会へ持っていくのだぞ、良いな」
何故かるうさんは苦い顔でそう言うと、オレに地図を、銀に札の束の入った包みを持たせた。銀ははじめてのおつかいに頬を紅潮させ、ぎゅうと包みを抱き込んだ。
るうさんはオレ達におこづかいをくれたのでそれは遊んできても良いという事で、銀はさかんにオレにデート?デート?と聞いてきた。
オレ達の屋敷は丘の上にあり、屋敷から街を見下ろすと、はるか先に教会の屋根の十字架がぽちょんと見えた。あれを目指してオレ達は出かける事にした。
++++++++++
街の大きな教会までやって来た。
ここの主にるうさんの不思議なお札を渡して代金をもらえば無事おつかいは終了だ。
途中銀は何度も寄り道をし、教会へ来たくなさそうな素振りを見せたが、オレは構わず歩いた。あるいは龍とは教会が嫌いな生き物なのかもしれない。
扉を開け声をかけると、頭の上の方から返事がし、仰ぎ見ると吹き抜けの天井の端にその人物は居て、すいとオレ達の元に降りてきた。
「よう!あいつから札を預かってきたのか、ご苦労!」
小柄で茶色い髪が肩まで伸びたその人は、るうさんが言うには悪魔で、教会で少年を育てているという。
成程そのくるりと羊のように巻いた角や、細長い尻尾を見ると彼は見たまま悪魔さんだった。彼は、オレ達に初めて会ったにも関わらず、
「お前やっとちょっと育ってきたな!これならケイにも男として見てもらえんじゃねえのか!」
と銀に陽気に話しかけた。この人はるうさんにオレ達の名前を聞いていたのだろうか?
しかし銀はどうした事かとても嫌そうに悪魔さんを睨んでオレの後ろに隠れてしまった。
銀を不思議そうに眺めると、銀は初めてオレからも避けるようにあらぬ方を向いてしまった。オレはそのせいか少し胸がちくちくとした。
この二人は知り合いなのだろうか?
オレがじろりと銀を睨んでいると奥の扉から小さな男の子が顔を覗かせた。子供のくせにいやに端正な顔立ちのこの子が例の、悪魔さんの育てている子供なのだろうか。
悪魔さんはオレの視線を辿って子供の姿を認めると、手招きをしてその子を呼んだ。
ててーっと少年は悪魔さんに駆け寄り、背中に隠れてしまったが、悪魔さんは、
「どうだ、銀とケイだぞ。お前の友達になってくれるのだ!」
と言ってオレ達を紹介した。
その時、僅かに銀が悪魔さんを見て不憫そうな顔をしたのは見間違いではないだろう。
その子は、実は悪魔さんの遠い昔の恋人の生まれ変わりなのだとオレ達はるうさんに聞いていたのだった。
しかし、だとしたら銀は昔の彼等を知っているのだろうか?魔界とかで見た事があるのかしら?
オレは不思議に思ったが、やがて忘れてしまった。
オレが少年と遊んでいる間、悪魔さんと銀は少し離れた所で長話をしていた。やっぱり魔界での積もる話もあるのだろう。教会を出る時、悪魔さんはどうでもいい話のようにさらりとるうさんは元気かとオレ達に尋ねた。
悪魔さんとるうさんは遠い昔からの天敵で仲がすこぶる悪いのだ、とるうさんは言っていたが、そんな天敵のお札を頼りにしちゃったりして、悪魔さんは別にそんなにるうさんの事が嫌いじゃないのではないかしら、とオレは思った。
お札は少年に持たせて魔除けにするのだという。悪魔なのに面白い事を言う人だ。それに遠い昔っていつの事?
るうさんはそんなに長く生きていたなんて、人間ではないみたい。
オレ達は悪魔さんに代金を貰い、無事おつかいを果たせるようだ。
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