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 校門の脇に立っていた隣の駅の女子高の制服を纏った女性に、封筒を差し出される。 「あの、読んでください」  わざわざ朝からご苦労だな。  俺は頬を染めたその子を一瞥すると、「どうも」とだけ言って受け取り、そのまま足早に通り過ぎた。  校舎の入口に着いた辺りで肩に掛けた学校指定のカバンに封筒を突っ込むと、下駄箱から室内履きを取り出した。  ふいに背に重みを感じ、顔を顰める。 「見たぜ~。相変わらずモテてんな」 「別に好きでモテてるわけじゃない」  そう言って、べったり寄りかかってくる男から距離をとる。  にやにやと笑いながら俺を見ているクラスメイトの本条正輝(ホンジョウ マサキ)を睨みつけた。 「どうせまた振っちまうんだろ?まあ、貴雄(キオ)は自分の顔を毎日鏡で見てんだから、そりゃ女子に求めるハードルも上がるわな」 「好きでこの顔に産まれたわけじゃない」  俺がぶすりと言い返すと、本条が吹き出した。 「ったく、そんなこと言えるのお前だけだぜ」  今度は俺の肩に腕を回してくる。  暑くて重くてうざったかったが、諦めて俺はそのまま歩き始めた。  口にしたことはなかったが、本条の存在に俺の高校生活は助けられているところもあった。  色白の肌、口紅でも塗っているようなぽってりと紅い唇。  瞳は薄い茶色で髪も染めてもいないのに同じ色だ。  アイドルだとか天使だとか言われる己の容姿が嫌だった。この容姿のせいで好きでもない女共に手紙や手作りの菓子などを貰うことも日常茶飯事で、それらは迷惑以外の何物でもなかった。  父からは男らしくないと何かにつけて言われ、男子校のせいかクラスメイトからはお姫様扱いをうけ、軽く自分が浮いているという認識はあった。  話しかけてもこないくせに、着替えの時だけちらちらこちらを盗み見るクラスメイトどもの中で、本条だけは入学式の時から「お前彼女いんの?今度合コン行かね?」と徹底的にちゃらく、特別扱いしないで接してくれた。  おかげで俺は完全にクラスの中で孤立したり、いじめにあったりもしないで済んでいると思っている。
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