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まあ、この中高一貫のお坊ちゃま高校で、いじめなんてそうないけどな。  そんなことを考えながら、いつも通りクラスの扉を開け、席に座る。  さっき貰ったラブレターを読ませろとうるさい本条を無視して、俺は教科書をカバンから取り出し、机に詰めていく。  この手紙は帰りにどこで捨てようと考えながら、俺はシャーペンの後ろをカチリと押した。  授業が終わって部活にも所属していない俺はまっすぐ帰宅した。居間のソファに寝転がってテレビを見ていると、家政婦の次子(ツギコ)さんが買い物袋を持って、入ってくる。  俺は慌てて荷物を奪うと言った。 「米とか牛乳は買ったら配達にしろっていつも言ってるだろ」 「いやですよお。これくらい、大丈夫です」  今年80歳になる次子さんは笑顔でそう言う。  俺は目を閉じるとため息をついた。 「あのねえ、ぎっくり腰にでもなったらどうするのさ。配達を使うのが嫌だったら、俺にメールしてくれれば、学校の帰りに買ってくるよ」 「あら、貴雄さんより、私の方が力持ちだと思うんですけどねえ」 「それはないよ」  そう返しても次子さんは微笑むばかりで何も言わない。  身長160㎝しかない俺は体も細身だし、確かに腕力もあるとは言えないが、いくらなんでも80歳の次子さんには負けないだろう。 「また、柔道の試合なんて見てたんですか?貴雄さんも好きですねえ」  テレビに映っている柔道着を着た選手を見ながら次子さんが言う。 「まあね」 「そんなにお好きなら、柔道部に入れば良かったのに」 「俺は観戦するのが好きなだけで、自分でやるのは好きじゃないんだよ」 「そうなんですか。じゃあ存分に観戦していてくださいな。お夕飯まで、あと一時間はかかりますからね」 「ゆっくりでいいよ。さっきコーラ飲んじゃったし」 「炭酸は骨を溶かすから良くないんですよ」  次子さんは俺を一睨みすると、キッチンに引っ込んだ。  俺は「はあい」と返事をすると、視線をテレビに戻した。  がっしりとした黒帯の選手が前に進み出る。  どう見ても同じ高校生徒とは思えない体格に俺はうっとりとため息をついた。
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