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まずは正臣の一次試験があった。
俺の私大の試験は一度のみだが、正臣は二度の試験にパスしないと合格にはならない。
一次試験が終わった夜、正臣から久しぶりに電話があった。
近所の公園にいるから来てくれないかと言われ、俺は手に持っていた単語帳を放りだすと、こっそり家から抜け出した。
公園のベンチに座っている正臣を見つけ、走り寄る。
正臣は真冬なのに、コートも着ていなかった。シャツとジーンズだけの姿に驚き、慌てて自分がしていたマフラーを、正臣の首に巻き付ける。
「試験、駄目かも」
ぼそりと正臣が呟く。
俺は何と言っていいか分からなかった。
正臣は志望校以外進学するつもりはないと、他校の受験は考えていないようだった。
もし本当にダメなら、二次募集など考え始めなくてはならないが、酷く暗い顔をしている今の正臣に言いだすことはできなかった。
「自分でも、最近全然勉強に集中できていないのは分かってたんだ。お前と一緒に早朝に勉強していた頃は、話しながらでもあんなに頭に入ってきたのに。家で一人参考書を開くと、家族がうるさいせいもあるのか、余計なことばかり考えちまって」
「正臣」
「自分から、集中したいって貴雄を遠ざけたくせに、こうやって自分がきつくなるとお前を呼び出して甘えて……俺、本当に勝手だよな」
ハッと正臣が自嘲的な笑いを浮かべた。
俺はしゃがむと、俯いている正臣と視線を合わせた。
「俺は辛いときに正臣が頼ってくれるの嬉しいよ。だっていつも少しでも正臣の役に立ちたいって思っているのに、それができなくて歯がゆいからさ」
目の前にある正臣の指先を握る。それは氷のように冷たかった。
そこに「はあ」と息を吹きかけ、暖かくなるよう自分の手で擦った。
「俺はさ、いつでもどんな時も正臣の味方だから。それを忘れないでね。俺は正臣を、正臣だけをずっと大好きだから」
そう言って赤い顔を上げると、抱きしめられた。
「俺もお前のこと……だけど、駄目なんだ。俺じゃっ、俺達じゃ」
耳もとで聞こえる正臣の声は泣いているようだった。
第一志望に落ちたら誰だって混乱するし、泣きたくもなるよな。
正臣の気持ちが少しでも楽になりますように。
そんな思いを込めて、俺はゆっくりと正臣の背中を撫でた。
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