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正臣と約束をした時間の15分前。
家の門を出ると、正臣はそこに立っていた。
まるでどこまでも続く砂漠を見るような乾いた瞳で、俺の家の表札をじっと見ている。
正臣、様子が変だ。
やっぱりちゃんと正臣の試験結果が出てから、遊べばよかった。
そう思いながら、俺は正臣の表情には気付かないふりをして近づいた。
「待ち合わせ公園じゃなかったっけ。わざわざ迎えに来てくれたの?」
「ああ、まあな」
正臣と肩を寄せ合い、駅までの道を歩く。
正臣に今日は出かけるのをやめようと言うべきか、それとも正臣が言うように、このままどこかに遊びに出かけた方が気晴らしになったりするのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、ふいに正臣が俺の左手に指を絡めた。
「正臣」
慌てて非難するような声を上げると、正臣が俺に向かって微笑んだ。
鏡を見なくても自分の頬が赤くなっているのが分かる。
「そんな神経質にならなくても大丈夫だよ。ほらこんな住宅街の小道、誰も歩いていない」
その日は三月なのに冷えこんでいた。午後からは雪もちらつく予報で、確かに通りを歩いている人は皆無だった。
俺は正臣の言葉に勇気を貰い、その手をぎゅっと握り返す。
正臣はそんな俺を見てふっと笑った。
「ねえ、本当に正臣の試験結果出る前に、こうやって出かけたりして平気?気持ち、落ち着かないんじゃない?」
正臣がはあっと白い息を吐いた。
「俺、二次試験駄目だった」
「でも、一次もそう言って受かったじゃん」
「うん。自己採点したら二次も合格のボーダー線上の点数ではあるんだけど……かなり低い。去年の試験だと、この点数は落とされたって」
正臣は俯くと、ぽつぽつと語り始めた。
「高校もかなり無理を言って学費の高い私立に通わせて貰って、だからこそ大学受験は必ず一発で合格するからって約束したのにそれもダメで……それならせめて一番初めに決めていたことくらいは、実行したいと思って」
「決めていたことって?」
俺の問いに正臣は夢から覚めたような顔つきになった。
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