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 その後は少し受験の話をした。  正臣は自分は確実に二次試験に落ちたと思っているようで、表情は途端に暗くなった。 「落ちていたら就職するつもりだ」  きっぱりとそう告げる正臣に受かっている俺がなにかアドバイスするなんて、できるはずもなかった。  ホテルから出るともう外は真っ暗だった。  志望校に合格してから父親の機嫌は割と良くて、多少帰りが遅くなっても怒鳴られたりはしないだろう。  それにたとえ殴られたって、俺は少しでも長く正臣と居たかった。  正臣が俺の家まで送ってくれる。  別れ際、どうしても伝えたくて、正臣のセーターの裾をひいた。 「あのさ、俺正臣の家庭の事情とか知らないし、子供だからできることも限られる。でもずっと、ずっと、俺は正臣の味方だから。それだけは覚えといてね」  そこでふっと息を吸い込むと、正臣の瞳をまっすぐに見つめた。 「愛してる、正臣」  正臣が無言で俺のことを強く抱きしめた。  家の前ということもあり、俺は顔を赤くして、正臣と体を離した。 「じゃっ、そういうことだから」  背中を向けて家に入ろうとした俺の手首を正臣が掴んだ。  振り返ると、今まで見たことのない必死な顔をした正臣がいた。 「貴雄っ、俺」  ガチャリと玄関の開く音が聞こえる。 「正臣、ごめん。俺行かなきゃ」  少々乱暴にその手を払うと、俺は急いで玄関に向かった。  そこにいたのが次子さんで俺はホッと肩の力を抜いた。 「貴雄さん。お帰りなさいまし」 「ただいま」  靴を脱ぎながら返し、顔を上げると、次子さんは浮かない表情をしていた。 「どうかした?」 「旦那様が、すこぶる機嫌が悪くらっしゃって。貴雄に話すことがあるから、帰ったら書斎に呼べと」  そう次子さんが言った瞬間、書斎から何かの割れる音がした。  次子さんが肩をすくめる。 「お酒もたくさん召し上がっているようですし、大丈夫でしょうか?旦那様の弟さんに連絡いたしましょうか?」  俺は首を振った。 「大丈夫。書斎に行ってくるよ」  心配そうな次子さんの肩をポンと叩くと、バックを床に置き、廊下の奥の扉に向かった。
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