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 俺に向かって振り上げ、降ろす。俺はさっと躱そうとしたが、クラブは二の腕に当たった。  痺れるような痛みを覚え、腕を押さえた。  このままじゃ、殺される。  俺は急いで立ち上がると、書斎を出て、玄関に走った。  廊下で父親に捕まり、押し倒される。 「お前みたいな家の恥はここで葬ってやる」  頭を庇った瞬間、声が聞こえた。 「旦那様。お止めください」  次子さんだった。  父の前に立ちはだかり、両腕を水平にあげ、俺を守ってくれている。 「次子、どけ。お前も殴られたいか」 「いえ、どきません。貴雄さんを殴らせるような真似、絶対にさせません」 「家政婦のくせに生意気な……」  父親がクラブを振りかぶった瞬間、次子さんが父の腰に抱きついた。 「次子さんっ」 「貴雄さん。次子は大丈夫ですから。逃げてくださいっ」 「次子、離せぇ」  次子さんを突き飛ばし、父親がこちらに向かってくる。  俺はもつれる足で必死に立ち上がると、靴も履かずに玄関から飛び出した。 「二度と戻ってくるなっ。俺の生きている間はお前にこの家の敷居は跨がせん。もう親でも子でもないからなあ」  背後で父親の怒鳴る声が聞こえた。  俺は一刻も早く家から遠ざかるように走った。  みぞれ混じりの雪が、紺色のコートの肩にうっすら積もる。靴下だけのつま先はかじかみ、感覚が無くなっていた。  誰かに連絡を取ろうとしても、スマホは家のバックの中だった。  こんなの絶対に迷惑だ。  分かっているのに、俺の足は正臣の家の方へとむいていた。  呼び鈴を押すと、正臣が玄関から顔を覗かせ、俺を見ると絶句した。 「ごめん。こんな夜遅くに」  俺が謝ると、正臣は急いで俺の手を引いて家の中に入れた。 「それ親父さんが?」  正臣に問われて、俺はこくりと頷いた。
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