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「え?小林くん?」
しばらく経った頃、突然後ろから声をかけられた。
一瞬で自分の体からアルコールが吹き飛ぶ。
10年ぶりに聞く声なのに、すぐに誰なのかわかってしまった自分に少し戸惑う。
さっき確認した時はいなかったのに。
ずっと外にいた?それか今来た?
考えつつも、声をかけられたのに振り向かないわけにはいかない。
「……久しぶり、泉」
予想通りの人物がそこにいた。
想像の中よりも少し大人に、そして一段と綺麗になった泉沙希が目の前にいた。
「やっぱり小林くん!仕事のことで外で電話してて。戻ったら小林くんっぽい後ろ姿見えたからびっくりしちゃった。……私のこと覚えててくれて嬉しい」
仕事のこと、か。
純粋な笑顔からこれは嫌味ではないとわかる。
「忘れてねえよ。泉も、よく俺のこと覚えてたな」
「あれ、泉も来てたのか!」
泉の存在に気付いた川田に、また会話を妨害される。
でも今は感謝の気持ちも少しある。
これ以上、泉と2人でなにを話せばいいかわからなかった。
「小林知ってるか?泉、すごいんだぜ!アニメの声優やってて、こっちの雑誌ではインタビューとか載っててさ!」
前言撤回。
さっきの感謝はどこかへ消え去った。
まるで自分のことのように言う川田に少し苛つく。
お前に説明されなくても知ってるっつーの!
「はいはい、お前が自慢するなよ!泉のこと知ってるから!」
俺の言葉に、驚いた表情を見せる泉。
「小林くん、私のこと知っててくれたの?」
「あー……まぁな」
あぁくそ。
かっこ悪い。
「俺、煙草吸ってくる!」
わざとらしいほどの大声で、外へ逃げる。
この10年、泉のことを忘れたことはなかった。
でも思い出したくなかったんだ。
泉のことを避けて、成人式も同窓会も参加しなかったのが、本当の所だ。
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