10年越しの約束

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高校3年生の時、俺と泉は同じ映画好きという趣味から仲良くなった。 そしてお互い、映画監督、声優という現実離れした夢を持っているということも伝えた。 今まで誰にも言ったことはなかったが、泉ならわかってくれると思ったんだ。 きっと泉も同じだっただろう。 秘密の共有ということから今まで以上に仲良くなった。 秋頃からだっただろうか。 俺は、泉のことを友達以上に思うようになった。 そして、泉も他の男友達とは違った目で俺を見ていることに気がついていた。 どちらかが思いを伝えていれば、恋愛関係に発展していただろう。 でも、高校3年生、進路選択の時期だ。 俺は東京の大学へ進学が決まっていたし、泉は地元の声優専門学校へ通うと聞いていた。 付き合ったとしても、3ヶ月後には離れることになる。 なにより、春からは夢に向かって挑戦する日々が始まる。 泉のことが好きだったけれど、恋人という存在を欲していなかった。 だから、卒業式の日に約束したんだ。 「私、小林くんのことが好き」 式が終わってすぐ、2人きりの中庭で突然告げられた。 「……知ってる」 俺も泉のことが好き、そう言いたかったのに。 「小林くんが、知ってることを知ってた」 泉はしっかり伝えてくれている。 なのに俺は何も言わないままでいいのか。 「……俺が、ちゃんと映画を作って、大人になったら会いにきてもいい?」 それは俺なりに精一杯、絞り出した言葉だった。 映画監督になれたという報告とともに、泉にこの気持ちを伝えようと心の中で決意していた。 「うん。私も、声優になれたら連絡するね」 夢に向かって頑張れば、なんだって叶うと信じて疑わないような子供だった頃の約束。 でも大人になった俺は、この約束の重みを思い知った。 結局俺は、この約束を果たすことはできなかった。 泉からは約束通り、声優デビューしたよというメールが来た。 ちょうどそれは俺が、映画監督になれるのはほんの一握りの人間だけで、自分はその拳の中どころか、掴み出される箱の中にも入れないと気付き始めた時だった。 そして夢を諦めて、就活を始めた頃だった。 そのメールによって、俺は、自分に対する苛立ちと惨めさをはっきりと認識した。 おめでとうさえ素直に言えず、静かに泉の連絡先を消去した。 あの時、俺がメールを返していれば。 いや、卒業の時に泉に好きだと伝えていれば。 なんて後悔しても、もう遅い。 あれから10年も経ってしまったんだ。
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