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次の日、俺と泉はカフェにいた。
あんなに距離を置いていた泉と2人きりで会うというこの状況に、俺自身が1番混乱している。
どうやら俺は、昨日の同窓会をしっかり楽しんで、さらに泉と2人で会う約束をしていたようだった。
記憶にはないが断るわけにもいかず、俺は今、泉と向かい合っている。
水色と白のストライプのワンピースを着ている泉は、昨日とはまた違った魅力がある。
窓越しに日の光が当たって、キラリと光る首元のネックレス。
俺は思わず顔を背ける。
「会ってくれてありがとう。……私のこと避けていたでしょ?」
泉がそう切り出して、俺は慌てて顔を上げた。
確かに避けていたけれど……。
馬鹿正直に、はいそうですとは言えず、なんとか取り繕う。
「いや、そんなことは……。仕事とか忙しくて……ごめん」
俺はコーヒーを見つめる。
「本当のこと言って。私に会いたくなかったから、同窓会にも顔出していなかったんでしょう?」
昔は、この真っ直ぐ俺を見つめる泉に惹かれた。
でも今は突き刺ささるように感じてしまう。
「ごめん、責めてるつもりはないの!私、ずっと謝りたかったんだ。卒業の時、あんな約束しちゃったから、小林くん帰って来づらくなったよね。私のせいで、ごめんね」
「違う!」
それは、違う。
確かに俺は泉のことを避けていた。
でも。
「泉のせいじゃない!俺が自分に対して情けなくて。だから、謝る必要はない」
泉はずっと自分のせいだと思っていたのか?
「本当に泉のせいじゃないから、それは信じてほしい。……泉はすごいよ、ちゃんと声優になれて。本当はもっと前に伝えたかったんだけど。声優デビュー、おめでとう」
よかった、しっかり目を見て言えた。
目の前の泉は、綺麗な顔で笑ってくれた。
「ありがとう。でも、本当はまだまだなの。やりたい役はできていなくて。けどね、10年前に小林くんと約束した、あの頃の私を裏切りたくないから、これからも頑張ろうって思えるの」
「……やっぱりすごいよ、泉」
心の底からそう思った。
俺とは全然違う。
格好良くて眩しさすら覚えた。
「小林くんにそう言ってもらえると嬉しい。でもね、私、小林くんも十分すごいと思う。素直で真面目で……私、そういう所が大好きだった」
過去形の告白だけど、俺の心は少し跳ねる。
それを悟られないように、コーヒーに手を伸ばす。
空のカップを置いた俺を見つめて、泉はまた口を開いた。
「ごめん、今の嘘。……本当は今でも大好きよ。この10年ずっと好き」
驚きの言葉に、つい空となったコーヒーカップに視線を落とす。
泉は真っ直ぐ伝えてくれたのに。
コーヒーを飲んで泉は席を立つ。
「……じゃあ、私は行くね。会ってくれてありがとう」
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