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俺が今ここにいるのは、偶然が重なってのことだと知ってもらいたい。
たまたま昨日から実家に帰り、駅前で川田と遭遇し、今日高校の同窓会があるというだけだ。
実家に呼ばれたのも姉ちゃんからの用事だし、川田のしつこさは相変わらず治ってないし、そもそも今日同窓会があるなんて知らなかったんだ。
だから、俺が今居酒屋の前にいるのは決して自分の意思ではない。
「よっ!遅れて悪い!」
俺の気持ちとは裏腹に、川田は引き戸を開けながら個室に響き渡る声を出す。
全員が俺達の方を向く。
俺は川田の影に隠れながら、素早くみんなの顔を見渡す。
自分の探していた顔は見つからなくて、少しホッとする。
「お、川田!……って後ろは、小林亮太?」
一番手前の奴が、席を詰めながら言う。
10年も会ってなかったのに、よく名前が出てくるもんだと感心する。
が、その後すぐに俺自身も思いのほか忘れていないことに気づく。
空けてくれた席に川田と一緒に座りながら返事をする。
「久しぶり、佐々木。急に来てごめんな。川田に連れてこられて……」
「小林と駅で会って!こいつ卒業以来、全然会ってくれねえから〜」
途中で話を取られたけど、まぁ気にしない。
川田相手だとよくあることだ。
「たしか、小林って成人式の時も顔出さなかったもんな。今も東京?」
さすが、元サッカー部エースで人気者だった男は違う。
特別仲がよかったわけではないのに、俺のこともきっちり覚えてる。
こういう所が女の子は嬉しいのだろう。
「そうだよ、大学出てそのまま東京でサラリーマン。2人は地元に残ったんだよな」
「そう。俺達はずっとここ。いいよな、東京って。夢があるっていうかさ」
ははは、と愛想笑いをする。
夢、か。
それからは思い出話に花が咲き、という通りになった。
この同窓会は年に2回ほど行われているようだ。
まぁ俺は今日が初めての参加となったわけだが。
でも思っていた以上に居心地がよかった。
10年ぶりに友達と会うとなり、身構えてしまっていたが、昔は毎日顔を合わせていたんだ。
飲み始めて数分も経てば、すっかり場に慣れて楽しんでいる自分がいた。
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