革命前夜

11/58
前へ
/58ページ
次へ
 すると、額に汗を浮かべながら困ったように苦笑したまま呟いた。 「夕刻、俺の宿に武装ゲリラどもが来たんだよ」  痛みに悶絶しているのか、眉間にシワを寄せている。 「奴等は、宿にいる泊まり客を強引に庭に連れ出したよ。馬小屋の前に五人のアリアンヌ人の男を横並びに立たせるとニヤリと笑いやがった」  ジェイミーは目を細めて悔しさを滲ませている。 「みんな、その時は食堂で飯を食っていた。結婚したばかりだと言っていた電信技士は必死になって命乞いをしていた。上品な顔の退役軍人。真面目そうな山岳鉄道工事のベテランの監督。口笛が上手い電報局員の若い男。基地から基地へと渡り歩く手品師の男がいたんだが、手品師は喚いて逃げ出そうとして真っ先に頭を撃たれたんだ」  年齢も経歴もバラバラの五人があっけなく殺されたというのである。そのむこだらしい光景がどれほど衝撃的なものだったのか、声のトーンでひしひしと伝わってくる 「俺は、隠れていた物置小屋の板の隙間から、崩れ落ちる人達の背中を見つめるしかなかった」  小屋の壁板が薄かったせいで流れ弾が木の板通過してジェイミーの脇腹をえぐった。 「急所は外れてる。死に至るような傷じゃない。とにかく、おまえが無事でホッとしたよ」  しかし、呼吸をするのも辛そうにしており頬を歪めている。ゲリラ達は宿を襲った後、宿と隣接しているワンダーラ人の高利貸しの自宅に踏み込み、命乞いする男の家族を次々と撃ち殺して、金庫の中のものを奪った。その騒動が終わって奴等が消えた後、ジェイミーは馬に飛び乗って逃げたというのである。 「その男達は地元の奴等なのよね? ピリナ兵は関与してないわよね?」  「今回は、ピリナ兵は蜂起してない」  それを聞いてホッとしていた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加