革命前夜

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 そこは砦の役目を果たしている。軍医や看護師の家族や商人は篭城していたが、エルザがいないと知って、ジェイミーはここまで迎えに来たのだ。    こんな夜中に移動するよりも、地下室にいる方が安全だと考えて篭城しているのだが、やはり不安は尽きない。 「銃や手榴弾を持った男達が大きな声でこれは聖戦だと宣言していた。彼等の銃はリンガル製だった」  リンガルはアリアンヌの隣国である。  リンガルの工作員は色々な意味で世界を掻きまわしている。リンガルの主な産業は金融と武器や麻薬の輸出である。 「今回の大規模な暴動の黒幕はリンガル政府の工作員だ。ワンダーラ人を使って内乱を起こして、アリアンヌの殖民地を混乱に陥れようという魂胆だ。ずっと前から、リンガルは山岳民族をゲリラ戦士として育成しているんだよ。不穏な活動に関しては情報部も前から掴んでいる」  山岳民族は、元々、旅人を襲うことを生業としていて荒っぽいことには慣れている。 「困った事に、ここに来る途中、農具を持って略奪に参加する農民も見かけた。貧しい彼等にしてみれば、高利貸しや豪商への怨みつらみも重なっているだろうな」  人口一万人の寂しい田舎町だ。しかし、二十マイル先には我が国の陸軍の駐屯地があり、長い国境地帯を守っている。ピリナ兵の部隊とアリアンヌ人の正規の部隊を合わせると千人以上になる。ただし、その援軍が来る前に橋を爆破されたらお終いだ。  これから、自分達はどうなるのだろう。 「山岳民族は二千人ぐらいはいる。奴等が町を占拠して、周辺の農民が次々と蜂起に参加するとやっかいだ。アリアンヌ政府としても農民を皆殺しにしたくないからな」   こうなると町の警察などは頼りにならない。ワンダーラ人の警察官は、場合によっては寝返ることもあるだろう。
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