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その時、ジェイミーが、ここに来たばかりだというのに女将のソフィアの経歴にやけに詳しいことが気になった。
（彼女から聞いたのかしら……）
いや、そんなことはどうでもいい。エルザは気を取り直して目を伏せた。
（外は暴動が続いているみたいだわ……。略奪や破壊行為によって町が蹂躙されていくのね）
深呼吸をして、こみあげる不安と格闘していた。冷静に考えなければならない。
ここは領事館の官舎だが町の中心地からは離れている。ここから国境近くにある領事館までの道のりを父は馬で通っていた。
『ただいま』
いつものように父は、日が暮れる前に帰宅した。
そして、今日の夕刻、ジェイミーが約束の時間に来ない事を不審に思いながらも夕食の準備にとりかかろうとして、地下室で副菜になりそうな野菜の缶詰を探していると、突然、玄関の戸を蹴破られたのである。
その時、エルザは地下室で異様な雰囲気を感じ取っていた。
複数のワンダーラ人が勝手に侵入した事に気付いてヒヤリとなる。往来で女の人の悲鳴が響いた。
その緊迫した空気が生々しくて、恐ろしさに飲み込まれて息が止まりそうになった。
『お、おまえ達は何者だーーーー。やめろーーーー。やめてくれーーーー』
父の悲鳴の後、乱暴に物が薙ぎ倒されて壊れる音に混じって銃声が響いた。
（いやーーー。お父様！）
男達が部屋を物色していると分かり、心臓がバクバクして生きた心地がしなかった。
『女物の服があるぞ。白人の娘はどこに行ったんだ。捕まえろ！』
エルザは現地の言葉を理解している。彼等は強盗だろうか？
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