革命前夜

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 彼等は寝室を念入りに漁っているようだが、厨房に関しては無頓着だった。ワンダーラ人の自宅には地下室というもがない。まさか、床下にエルザがいるとは夢にも思っていないようである。しばらくすると彼等は家から出て行った。シーンと静まり返っていた。 『お、お父様……?』  何度か震える声で下から呼びかけても返事はなかった。エルザが地下室で放心していると、また誰か入ってきた。 『エルザ! どこにいる! いないのか! 連れ去られたのか! くそっ!』  ジェイミーだと気付いたエルザは下から叫んだ。 『ジェイミー。あたしはここよ!』  すると、ジェイミーは地下室へと下りてきた。エルザは嗚咽しながらすがりついた。 『あ、あたし。マッシュームの缶詰を取りに地下の貯蔵庫に入ったら物音がしたの』  地下室に缶詰を保存しているのには訳がある。シータの貧民は食べ物を盗むことに躊躇というものがない。金持ちから物を奪って何が悪いのだと居直る物乞いもいる。  中には、エルザがいても堂々と盗みに入る者もいるので、銀製品や缶詰や貴重な油類は地下に隠しているのである。 『な、何が起きたの?』 『ゲリラどもが町を破壊している』 『お、お父様は……』 『伯爵様は撃たれて亡くなったよ……』  エルザはヘタヘタと座り込んだ。そして、悔しげに床を叩いた後は、地べたに顔を伏せてて静かに泣いた。 『エルザ……。ここで一晩、明かそう。移動するよりも、ここで隠れている方が安全だ』  そんなふうにジェイミーに促がされて地下室に入ったのだった。  地下室へと続く短い梯子を降りる際には恐怖で放心していた。黙っていると気が変になりそうだった。  その時、走馬灯のように過去の屈辱が蘇り、我を忘れてジェイミーに婚約をぶち壊された文句を言ったという訳なのだ。  しかし、こうして座っていると嫌でも思い知らされる。
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