革命前夜

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 ジェイミーは父が最も信頼している執事の息子だ。それなのに、いつもエルザに偉そうに怒鳴るから頭にきてしまう。  ジェイミーは、ちょうど、エルザの父が狩猟の際に乗る馬の背を梳いているところだった。 『ボーとするな。馬の後ろで何をしてやがる。あぶねぇだろう!』  エルザは、鹿毛の馬の足元に落ちている誰かの金ボタンを拾おうとしていただけなのだ。  おそらく、ハンサムな御者のヒースのお仕着せの上着から落ちたに違いない。  ツンと唇を尖らせてエルザは言い返した。 『うちの馬はお利口なのよ。蹴ったりしないわよ。あなたって生意気ね。ちゃんと、エルザお嬢様って言いなさいよ!』  ジェイミーは、エルザを真正面から見据えると鼻先でフッと笑った。 『ケッ。誰が言うもんか』  ジェイミーは父親に買ってもらった赤いネッカチーフと茶色のハンティング帽がトレードマークで、いつも兄たちのお古を着ているというのに、なぜかお洒落だ。  その顔立ちは賢い猫を連想させる。  ジェイミーの栗色の髪がサラサラと風になびいている。エルザはそのサラサラした髪や、ソバカスのない肌が羨ましかった。チリチリ頭でソバカスだらけのエルザとは色々と対照的だ。  村の男の子の中では一番ハンサムで背が高くて駆けっこも速い。  読書が好きなジェイミーは、御屋敷にあるエルザの父の本を借りて熱心に勉強している。校長先生が言うには、ジェイミーは神童だそうだ。  神童って何なのと父に聞くと、『頭がいいということだよ』と、教えてくれた。だけど、ジェイミーはいつ勉強しているのだろう。いつも、御屋敷で働いているように見える。 『おまえに対してお嬢様なんて言ったら舌が腐っちまうよ。おまえは、村の子供達と本気で取っ組み合いの喧嘩をするお転婆だ。ジャジャ馬だって、みーんな言ってるぜ』
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