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最初の頃は、料理を作るのに手間取り、アブドの妻の手料理をそのまま出したこともある。ちなみに、すべてカリーだった。それはそれで美味しいのだが、アリアンヌ人の客人は母国の味を恋しがる。
それに気付いたエルサは猛特訓をして、ケーキも焼けるようになっていたのだ。我ながら、進歩したものだと思っていた。
そして、一週間前、高位の官僚の青年がシータに来るという短い内容の電報が届いた。
これは大変とばかりに、エルザは慌てふためいた。
『やだ。こないだ来たばかりなのに。また、役人が来るなんて! ああ、もう、やだーーー。もう、牛肉の缶詰めはないのよ』
困った事に、この国では、豚を不浄にものとして嫌い、牛を神の使いとして崇めている。
つまり、どちらの肉も市場で売られていない。
山羊や駱駝や馬の肉売られているが、そんものをアリアンヌ人には出せない。ジェイミーが来る前日の夕刻にエルザは苦労して鳩を捕まえた。ちなみに、鳩を捕まえる方法を伝授してくれたのもアブドてある。
『おやおや、また、お客様が来るのですか?』
のんびりとした声が垣根の向こうから聞えてきた。
『ええそうなの。困ったわ。お父様のシャツの袖のシミをなんとかしたいのよね』
洗濯場で、父のシャツを洗いながら溜め息をついてくれると、ひょいと現れてアドバイスをしてくれた。
『カリーの汚れは太陽に干せば薄れますよ』
アブドの言う通りだった。色々と失敗を繰り広げながら、エルザはここでの暮らしに慣れたつもりだったが、まだまだ知らない事があるようだ。
春から秋にかけては暑いというのに、冬になると急に寒くなる。桶に溜めている氷水を砕いて調理することもある。
今の季節は夏だが、カラッとしていて過ごし易い。
それにしても、どんな人が来るのかしらと思いながら、朝から、張り切って炭火て鳩を焼いたのだ。
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