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お皿に茹でたアスパラを沿えてオレンジソースをかけた。庭で飼っている山羊の乳を工夫して低温殺菌をして生クリームを作ると、丁寧にケーキの表面に塗った。
花瓶に庭に咲いていた綺麗な花を豪勢に飾った。これで、料理の見栄えが良くなった。
午後、エルザは、水場で行水をして髪と身体を洗い一張羅に着替えた。そうやって、準備万端の状態で、夕刻、我が家の扉をノックした行政官を出迎えたところ、なんと、そこに颯爽と現れた紳士はジェイミーだったので、言葉も出ないまま立ち竦んだ。
まさか……。こんなふうに再会するなんて思ってもみなかった。
彼とは二度と会えないと思っていた。
『ようこそ。よく来たね』
言いながら、すっかり白髪になりやつれた顔のエルザの父がダイニングにジェイミーを迎え入れた。ダイニングと呼ぶ程の空間でもないのだが、いつも、ここで客をもてなしている。
普段、あまり考えないようにしているのだが、壁紙もカーテンも古びている。
それでも、前にいた御屋敷から持ってきた銀食器や陶器やレースのナプキンによって、かろうじて、晩餐会の雰囲気を保っているつもりだった。
精一杯、工夫をこらした料理を準備したのだが、それても、ジェイミーの口に合うかどうか不安だった。
ジェイミーがエルザの料理を食べるのは、それが初めてなのだ。
薄暗い食卓に並ぶ料理にジェイミーは目を細めながら告げた。
『ああ、とても綺麗な盛り付けですね。羊肉のパイが美味しそうだな。いい焼き具合だ。故郷を思い出しますね』
『うちには料理人もメイドもいなくてね、調理も掃除もエルザがやっているんだよ。それにしても久しぶりじゃないか。噂には聞いていたのだよ。ずいぶんと立派になったね。ところで。エバンスは元気にしているのかね? あんなに尽くしてくれたのに、退職手当も出せなくて本当に申し訳ないことをしたね』
ティム・エバンスはジェイミーの父親だ。
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