革命前夜

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 退職金どころか、二か月分の給金も未払いのまま別れた事をしきりに父は謝った。謝って済む問題ではないと思うのだが、父は、その代わりに、ティムに自分が愛用していた嗅ぎ煙草入れを渡したようだ。 『ご心配には及びません。嗅ぎ煙草入れを父は今も大切に持っていますよ』、 『しかし、君にも申し訳ないことをしたと思っているのだよ。子供だった君に、大学に行くなら援助すると言っていたというのに、その約束も果たせなくてすまなかったね』  次々と謝り続ける父の横顔を見ることが辛くなってきた。 『謝らないでください。奨学金で大学に行こうと思っていたから、何も問題はありません』  シェイミーは、この家を見て、どう思っただろう。伯爵が暮らすような場所ではない事は確かだ。初めて、ここに来た時、エルザは絶句した。家というよりも廃屋だ。  厨房の下水は詰まっておりウジが大量に湧いていた。  当初は、ワンダーラ人の若いメイドを雇っていたのだが、その子はカリー以外の料理を知らないのですぐにクビにしている。  ジェイミーは、チラッとエルザの荒れ指先を一瞥してから、少し、表情と声を落として静かに語った。 『父のことは気になさらないで下さい。財務省の重鎮のライナー卿の湖畔の別荘の管理人をしています。父はマス釣りに明け暮れています。他の使用人も良い場所に移っていますよ。御安心下さい』 『それで、うちの小作人達はどうなったのかね?』  領地は国庫に没収されている。それは、国によって競売に出されたようだ。 『土地を買い取ったのはウイスキーで財を成したハモンズさんです。立派な人物ですよ。ハモンズさんが寄付してくれたおかげで村の小学校は改修工事が行なわました。村の診療所も以前と同じように運営されています』 『ああ、そうなのか。安心したよ。ところで、君の妹はどうしているのかね?』
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