革命前夜

　反乱分子に追い詰められたエルザ達は、このように緊迫した夜を迎えて怯えている。しかし、エルザは、今の状況とは関係ない事を、なぜか、ジェイミーにぶちまけていた。死ぬ前に、とうしてもこれだけは言っておきたい。

「あのね、昨日は言えなかったけど、あなたのせいで、あたしは未婚のままなのよ！」

　それに対して行政官のジェイミーが皮肉な薄笑いを浮かべている。

「おいおい、真っ先に駆けつけた俺に対して、それはないだろう？」

「いいえ、あなたが邪魔しなければ、今頃は、国内屈指の資産家と結ばれて豊かに暮らしていたのよ」

　五年前、伯爵令嬢のエルザは二十三歳で、まさに、人生の最高潮を迎えようとしていた。

　旧大陸でもトップクラスの生産量を誇る紡績工場の跡取り息子のウィリアム・ホールデンとの婚約発表を控えていた。

　彼の父は工場の他に軍港付近に不動産を所有している。それも、いずれ、ウイリアムが相続することが確定している。あの夜、二人は友人や親類を招待して婚約発表のパーティーを開いたのだ。

　ウィリアムは、王都の高級ホテルの広間を貸し切っていた。

　美しい天井画。巨大なシャンデリア。弦楽器を演奏する楽師達。シャンパンやワインを配る給仕もハンサム揃いで礼儀を心得ている。

　エルザは、淡いパープルの柔らかなシルクのドレスに身を包み、左手の細い指にはエメラルドの大きな指輪を嵌めていた。誰もが溜め息を漏らしながら、エルザのことを見つめていたのだった。

　新聞記者も、そのパーティーに呼ばれていた。

　婚約発表の記事を掲載する為に、わざわざウィリアムが記者も招いていたのだ。

　エルザに対して女学校時代の親友で宝石商の娘のサンドラが羨ましそうに耳元で囁いた。