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『はい、妹は今も村にいます。二人目の子を妊娠しています』
『ああ、孫がいるというのはいいものだね』
どこか羨ましそうにしている。エルザの胸がチクリと痛んだ。エルザもアリーも独身なのだ。きっと、どちらも孫なんて作れやしない。父は遠い目をしているようにも見える。
こうしている間も、エルザは斜め前にいるジェイミーの様子を観察していた。
ジェイミーの指は長くて綺麗だ。結婚指輪は嵌めていない。どうやら、また独身のようだ。
きっと、一流店でスーツを作ったに違いない。細身の身体に綺麗に沿っていて、とてもエレガントに見える。その髪はサラサラしていて、整髪料の上品な香りがエルザの鼻腔をくすぐる。
使用人だったジェイミーは自信に満ちた物言いをしており、まるで貴族のように見える。
一方、もてなす側のエルザ親子は見る影もなく落ちぶれている。父のスーツはサイズが合っていない。
(だって、それは古着なんだもの……)
父の薄汚れたシャツがあまりにもみすぼらしくて胸が痛くなる。
エルザは直視できなかった。エルザの洗濯の技術では袖口と襟の黄ばみをどうしても落とせない。この家には貧困の陰がこびりついている。天井には鼠の糞尿のあとがある。不潔な小屋のような屋外トイレは臭くて入る度に憂鬱になる。
伯爵令嬢と呼ばれていたのは遠い昔のこと……。
エルザは、お客様がくる度に水玉模様の化繊のペラペラの衣服を着ている。これだとアイロンをしなくて済むからだ。
掃除も洗濯も料理も害虫駆除も買出しも畑仕事もエルザが一人で行なっている。最近のエルザは板張りの床の上を裸足でバタバタと歩くようになっている。
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