革命前夜

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 ケチャップ、ピクルス、ジャム、ベーコン、ハム、チーズ、クッキー、マッシュルーム、ワイン、酢。缶詰入りの食料品を買い続けるしかない。缶詰にはここまでの輸送費が加算され祖国では2リランの缶詰牛肉が三倍の値段になる。  今の父の収入では節約しないと生きていけない。エルザは、石鹸の木と呼ばれる現地の実を揉んで洗濯や水浴びをしている。  昨日、ジェイミーと会って嬉しかった。けれど、すぐに哀しみが胸を押し上げて息苦しくなるのが分かった。こんな姿、ジェイミーに見られたくなかった。  バサバサの赤毛。痩せ細った身体。惨めで野暮ったいオールドミスそのもの。  最近は、朝、鏡を覗き込むゆとりさえもなくなっている。  母方の祖母がいるが貴族の家系ではなかった。母は陸軍の主計官の娘なのだ。慎ましく遺族年金で生活をしている中産階級の祖母に頼りたくなかった。  父方の叔母は王都で一人暮らしをしていた。夫の遺産があるので、それなりに豊かな暮らしをしているようだが、参政権の運動に身を投じた運動に参加するアリーを激しく嫌っている。あんな人の世話になるくらいなら死んだ方がマシだ。  型破りな伯爵令嬢と呼ばれてきたエルザは、貴族の女友達よりも、中産階級の女の友達の方が多かった。貴族らしくない。そう呼ばれていたが、それでも、父か破産するまでは社交界での集まりに、ちゃんと参加していた。社交界デビューの日には宮殿で女王陛下とも謁見している。 (今のあたしは何なのかしら?)  没落令嬢という言葉が脳裏に滲んだ。  この二年間、ジェイミーに会うまでは自分が貴族だった事さえも忘れていた。いや、忘れていた方が遥かに楽だから過去を考えないようにしていたのかもしれない。                      ☆  昨日の、玄関先でジェイミーを見送った時にジェイミーが言った。
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