革命前夜

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 エルザが、これはどういうことなのかと、ジェイミーに問うと彼は肩をすくめた。 『そんなの、おまえの婚約者の口から聞けばいいさ』  そして、その翌日、ウイリアムがエルザの屋敷まで来て深々と頭を下げた。そこで、ようやく、すべてのことを正直に説明したのである。 『申し訳ありません。伯爵様、どうか、お許し下さい。これは、すべて若気の至りなのです』  学生時代の彼は、夏休みに大陸を横断をする旅に出ていた。いわゆる、グランドツアーというやつだ。エルザの国では、大学生の若者が見聞を広めるという名目で諸国を巡るという習慣がある。  事業をするにしても政治家を志すにしても、まずは、各国の事情を知っていなければならない。だから、親達は息子を送り出す。  とはいうものの、ほとんどの若者は、各地で美味い物を食べ、風光明媚な景色を堪能して、娼婦や町娘と一晩限りの恋を楽しむことを目的としている。  金持ちの坊ちゃんを迎える宿の主人も、そこらへんはよく心得ていて、綺麗な女がいる酒場や飲食店を彼等に勧めていた。学生達は、ワーッと大挙して酒場へと繰り出して飲み明かしておおいに青春を謳歌する。ウィリアムもその一人だった。   ある時、湖畔の風景が美しい異国の田舎町でクララという色っぽい女性と知り会った。かなり年上だったが、その包容力が逆に一人っ子で寂しがり屋のウィリアムには心地良かった。クララは、優しかった亡き母にどこか似ていた。  愛してる。永遠に愛してる。そんな言葉を囁いて、三日間、彼女と過ごした彼は、すっかりのぼせ上がり、その場の勢いで挙式したというのである。
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