革命前夜

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 第十七代カーランド伯爵であるエルザの父が苦い顔で告げたことで破談になった。そして、それ以後、エルザは人々からの哀れみの対象となった。わざわざ、ジェイミーがクララという女性を連れて来なければ、あんな結果にはならなかったのに……。  当時の屈辱と運のなさを思い返しながら言う。 「あの後、文句を言いたくても、あなたはアリアンヌにいなかったわね」 「おまえの婚約発表のパーティーの翌朝、すぐに、香辛料諸島行きの汽船に乗ったんだよ。だから、おまえとも話せなかったのさ」    ここは地下室だ。敵に見付からぬように明かりを消してしまったので、横にいるジェイミーの表情までは分からないが、深い森の中にいるようなコロンの香りは伝わってくる。 「来月、あたしは二十九歳よ。あたしは美人じゃない。婦人参政権の運動員をしていたせいで、男の人からも煙たがられているのよ! あれが最後のチャンスだったのよ」 「卑下するなよ。これまで結婚出来なかったのは伯爵様が破産したせいだ。それに、ウイリアムのことは、後から重婚と娘の存在が発覚するよりはマシだろう。おまえは奴を愛していたのか?」 「そうね。あたしが財産目当てで婚約していた事は認めるわよ。でも、破産寸前だったお父様の為に結婚したかったのよ」  人生はままならないものである。色々なものが自分の手から零れ落ちていく。  今更、恥も外聞もあるものか。ここにいるのは抜け殻のような惨めな未婚の女だ。  こんな状態で、我ながら、よく暮らせるものだと苦笑してしまう。  没落という言葉が、これほど似合うレディは他にはいない。どうにもならない虚しさが心を占めており、湖の底に忘れ去られたかのような気持ちで目を伏せる。  フーッ。少し呼吸を整えてからエルザはポツンと尋ねた。 「それで、ウイリアムはどうしているの?」
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