革命前夜

「どうやら、クララとは別居しているみたいだぞ。クララは、アリアンヌの国籍になった。郊外にある小さな家で気楽に暮らしている。夫のウイリアムは、居直って、武勇伝のように過去の失敗を話しているそうだ」

「男は、社交界から爪弾きにはならないのね」

「逆に、前以上にモテているみたいだな。奴は、不倫を満喫しているよ。クララも、聞いたところによると、近所の男と付き合っているみたいだ」

「何なのよ。結局、クララもウィリアムのことなんて愛してないのね」

「まぁな、親子ほど歳が離れてるから無理もないな。娘のフローネはウィリアムの自宅に近い寄宿学校に入っている。ウィリアムは娘を可愛がっているよ。それが何よりの救いだな」

「前から思っていたけど、どうやって、ウイリアムの奥さんの存在を知ったの？　彼女は外国の田舎町にいたんでしょう？」

「俺が大学にいた頃に寮の部屋に手紙が届いたんだ。養育費を送って欲しいという内容だった。どこのウィリアムか分からなくて、手紙を放置していたが、おまえがウイリアムと付き合いだした時に気付いたんだ」

「それで、わざわざ、女性に旅費を与えて渡航させたの？」

「ほっとけないだろう。彼女は生活に困っていたんだぞ」

「だけど、何も、あたしの婚約発表の場に連れて来ることはなかったのよ！　婚約発表の前にウィリアムの会社の事務所に彼女を連れて行けばいいでしょう！」

「それじゃぁ、意味が無いなぁ～」

　暗闇の中、ジェイミーがエルザの頬をチョンと指で突いている。何だか、憎らしい言い方だ。

「おかげで愛の無い結婚をせずに済んだんだ」

「なっ……。なによ、よくもそんなことが言えるわね！　あなたは悪魔よ！」