革命前夜

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 こんな状況で言うべきではないと分っているけれども、エルザは睨みつけるようにして怒りを吐き出していた。 「ジェイミー、あなたのような不愉快な男は見た事がないわ!」  頭上では、銃弾と誰だか分からない人達の悲鳴が飛び交っている。ガタガタッ。爆破の振動が伝わり古い木造の家の壁全体が軋む。その度に、エルザはビクッとしたように身体を揺らす。 (ああ、神様、どうか、お助け下さい)  ずっと、膝を抱えるようにして座り込んでいた。生きた心地がしなかった。  ここは、紅茶と胡椒の栽培で有名な殖民地の最北端の辺境地にあるシータという小さな町だ。この町の北側一帯には標高の高い険しい山脈が連なっている。  町は標高二百メートルに位置しており夏でも涼しい。そして、冬は極寒となる。ワンダーラといえば常夏をイメージする人が殆どだが、ここは、総督府のある南部とは何もかもが違っている。  今からおよぞ五十年前、エルザの母国のアリアンヌがワンダーラの徴税権を握り、内政干渉をするようになった。  そして、今では、ワンダーラの王はお飾りとなり下がり、派遣された白人の総督が二億もいるとされてるワンダーラの民を支配している。 『王の権威が完全に保たれているのは、真っ白な外観の城の中だけだぜ~ ワンダーラの本当の王は白人の総督じゃないか~ ワンダーラの王は操り人形なのさ~』と、民衆に揶揄されようとも、王は、我関せずの姿勢で生きている。元々、王は、各地の藩王と呼ばれる領主に治世を任せてきた。  王は王領直轄地さえ保てたなら、それで満足なのだ。
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