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大澤さんは天然
僕には大澤さんという女友達がいる。
僕は彼女をアニメ映画に誘った。
そのアニメの元ネタはエロゲーなのだが、今や数字が取れるアニメとして大人気。
元ネタがエロゲーだと知らないニワカファンも増えた。
大澤さんもそんな一人で、すっかりアニメ『ギーク』の世界に魅了されて、映画の帰りにオタク御用達のショップでフィギュア品定めをしている。
フィギュアというものは基本高い。精巧に作られているものほどお値段が上がる。
大澤さんは、値札を見てため息をつく。
そして、スマホで何か調べると俺に、
「中本君、このお店に行ってみたい」
僕にスマホの画面を見せる。
秋葉原の街を知り尽くしている僕にとって、そのお店に彼女を案内することは簡単だ。
だがしかし、その店は中古フィギュアを扱っている。
「そのお店は中古品だから安いんだよね。日焼けとかしてるかもしれないから新品の方がいいんじゃない?」
僕は天然の大澤さんに中古フィギュアに潜む危険を教えられずにいた。
中古フィギュアには、フィギュア練乳の危険が…。
ライトオタク、いやオタクデビューしたばかりの大澤さんにそんなキモいことを言えない。
だって僕がフィギュア練乳について解説したら、僕がそんなことしてる変態に見えるじゃないか。
フィギュア練乳というのはつまり、美少女フィギュアに男のアレに見立てた練乳をシリンジなどを使って掛ける他愛もない遊び。
しかし、世の中には練乳やヨーグルトではなく、マジでフィギュアにアレを掛けてハアハアするヤバい奴もいる。
大澤さんにそんなことは言えない。
どうする僕?
ノリノリで地図アプリを起動して、僕をおいてけぼりにして、大澤さんは中古フィギュアの店に向かって歩き出してしまう。
慌ててついていく僕に、
「桃華って可愛いよね。『ギーク』の中で私は桃華が一番好き」
大澤さんは無邪気に桃華の魅力について熱く語り出す。そして、
「中本君はどのキャラが好き?」
僕に話を振ってくる。
「僕は菖蒲かな。菖蒲って大澤さんに似てると思うな」
大澤さんは少し不満そうに、
「菖蒲って天然でドジなキャラじゃない。どこが似てるの?」
いや、大澤さん。あなた天然でドジでしょう?言いたくても言えない言葉を飲み込んで、
「髪の長さとか、ぱっちりした目とかが似てるって話。性格じゃなくて」
なんとか誤魔化そうとする僕。
「見た目が似てるって話か。確かに髪型とか目は似てるかも。セミロングの髪型だし。私は桃華みたいなロングヘアで、切れ長な瞳が好きなんだけどね」
大澤さんは一応納得してくれたようだ。
この天然な女の子にどうやって中古フィギュアに潜む危険を伝えたらいいのか。
僕は途方に暮れていた。
大澤さんは中古フィギュアの見せるで桃華のフィギュアの箱を手に取って、
「うわあ、この値段なら私でも買える」
嬉しそうに目をキラキラさせている。そのままレジに向かおうとする大澤さんに僕は、
「待って!あの、大事な話があるんだ」
僕は大澤さんの手を取って急いで店を出た。
「中本君、どうしたの?」
大澤さんは中古フィギュアを棚に置くと、僕に引きずられるように店を出る。
秋葉原の路上で僕は、
「大澤さんが桃華をそんなに気に入ったのなら、新品のフィギュアを僕がプレゼントする」
大澤さんは小首をかしげながら、
「どうして中本君がそんなに高い物をプレゼントしてくれるの?」
不思議そうな顔をして僕に尋ねる。
ええい、ままよ。僕は勇気を出して、
「僕は…大澤さんが好きだから。好きな人にプレゼントするなら絶対に新品がいい」
言ってしまった…。大澤さんは驚きを隠さずに、
「中本君って三次元イケるんだ。てっきり二次元しか好きになれないタイプだと思ってた」
グサリと僕の心に刺さる一言を言う。
僕は畳みかけるように、
「告白の返事がノーでも構わない。せめて、最後にプレゼントくらいさせてほしい」
たぶん真っ赤な顔をして言ってる。
大澤さんはにっこりと笑って、
「答えはイエスなんだけどな」
僕の手を握り返す。
「え?本当に?」
僕の声はうわずる。
僕達は元いた店に戻る。
桃華のフィギュアを選び、大澤さんの気に入った白いワンピース姿にピンクの花束を持った桃華のフィギュアを僕はレジに持っていく。
「ラ、ラッピングとか出来ますか?」
どもりながらレジの人に聞くと、
「少々お時間いただきますがよろしいですか?」
そう聞くので、
「よろしいです」
大丈夫ですと言いたいのによろしいですと言ってしまった。
二万円のフィギュアは綺麗にラッピングされて、リボンをかけられてショップの袋に入れてもらった。
大澤さんに袋ごと手渡すと、
「ありがとう、嬉しい」
向日葵のような明るく屈託のない微笑みで、受け取ってくれる。
そして、手を繋いだまま僕達は電車に乗る。
最寄り駅で別れるときに大澤さんは、
「中本君、次は私がプレゼントしたいからリクエスト考えておいてね」
笑顔でそう言ってくれた。僕は、
「じゃあ、次のデートまでに考えておくね」
微笑み返して大澤さんと別れた。
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