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「本当に、一人で大丈夫?」
次美さんに背中をさすってもらって、ようやくわたしは落ち着いた。
「はい。……バイトにも行かなきゃいけないし」
わたしは三人に笑って見せた。無理しているように見えないだろうか。
「じゃ、俺達はこれから公演があるから。良かったらそのうち、うちの後輩の舞台を観てやってよ」
「俺も仕事が残ってるからな、付き合えなくてすまない。……千佳さん」
武田さんはわたしに語りかけた。
「君には複雑かも知れないが、この街の光景は君のお父さんが望んだものだ。あの人は、誰よりも実直な警察官だった。それは忘れないでくれ」
「はい。父に会わせてくれて、ありがとうございます」
わたしは三人に深々と頭を下げた。大江さんと次美さん、武田さんはそれぞれ違う方向へ去って行った。不思議な人達と別れ、わたしもバイト先へ向かおうとした時。
こちらに、小学一年生くらいの女の子と、その母親らしい女性がやって来るのが見えた。女の子は小さなバラの花束を持っている。
二人はツリーの下に花束を置くと、そっと手を合わせた。
「あ、あのっ!」
わたしは思わず二人に声をかけていた。
「その、花束は……」
「これですか?」
母親は声をかけられた時には少しだけ不審そうな表情を見せたが、すぐに答えてくれた。
「一昨年、ここで通り魔事件があったことを知ってます?」
「は……はい」
「わたしとこの子は、あの時ここにいたんです。この子が転んで逃げ遅れてしまって、犯人に殺されそうになった時、一人のおまわりさんがかばってくれたんです」
どきり、と胸が鳴った。それは──
「自分が刺されながら、そのおまわりさんはわたし達を逃がしてくれました。……後になって、その方は亡くなったと聞きました。今年、イルミネーションが復活したので、お花だけでもあげたいと思って来たんです」
お父さん……お父さん。見える? 覚えてくれてる人がいたよ。お礼を言いに来てくれたよ。
わたしの眼から、再び涙が流れ始めた。
「わたし……その警官の、娘です」
──クリスマスなんて嫌いだ。涙が似合わないから。
だけど、こういうほんの少しの奇跡が、どうしようもなく似合ってしまうのがクリスマスなんだ。
メリークリスマス、お父さん。
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