3人が本棚に入れています
本棚に追加
意外に感じるだろうか。
だけど、本当のことだ。
いまここで、紙面の上でぐらい、こころの内を吐露してもいいだろう?
文字とは、不思議だね。
抑え隠していたはずの気持ちを、こんなにも己に突きつけてくるのだから。
それが、禁じられて然るべきことなのだと、こころに深く刻んだ時。
僕が君に抱く気持ちそのものが、歪んだ思考なのだと認識せざるを得なかった時。
社会的に下になってしまうであろう君に咎が向かないように、僕は、君への想いを封じ込めることにしたんだ。
学舎で指定された課程を終えて戻った僕は、徹底して君への態度を変化させることにした。
はじめは戸惑った様子だった君も、やがてそれを受け入れたことに憤りを感じただなんて、随分と勝手な言い草だ。
だけど、離れていた五年間。
君を忘れた日はなかったし、君以上の女性はいなかった。
それは今も同じだ。
なんでもない時に、ふと君を思い出す。
君が僕を呼ぶ声。
君が、僕のために作った料理。
整えられた寝室、清潔に保たれたキッチン、磨かれたガラス窓から見える庭。
そう庭だ。
君が、僕のためにと育てた植物たちは、本当に見事だった。
このご時世。乾いていない果物を食べることが出来るなんて、奇跡だと思ったよ。
君はいつだって、僕に驚きと、喜びと、温かさをくれた。
ああ。いつか本物の空が見たいね。
映像で見た、かつて水の星と呼ばれた惑星のような世界。
美しいアオ。君の瞳のような空。
底知れない青い空、透き通るような水、鮮やかに萌える緑。
僕が目指して研究してきたそれらは、この国の情勢とは真逆の方向にあるものだったけれど、君だけが信じ、辺境ともいえる場所へついてきてくれた。
それを「逃げ」だという人もいたけれど、それでもよかったんだ。
研究なんて二の次だ。
僕は、君とふたりだけで暮らしたかっただけなのかもしれない。
誰にも咎められない場所で、この先の未来をずっと、君と生きていきたかった。
遺伝子エラーで生殖機能を持っていない自分の身体。眉を顰められ、嘆息された欠陥を、僕は嬉しく思う。
優秀な子を残すためだけに、会ったこともない誰かと婚姻を結ばなくてもよかったから。
神とやらがいるのかどうかは知らないけれど、僕は「神」に感謝する。
いま、君のまわりはどんなふうだい?
君が育てた種。僕が作り、君が世話をしてくれた植物たちは、もう芽吹いただろうか。
造花ではない、生きた花を束にして、君に贈るのが僕の夢なんだ。
何故だかわかるかい?
君が言ったからだよ。
僕が、甘ったるいとバカにした恋愛小説にあった求婚の場面。
素敵ですと微笑みを浮かべた君に、僕が手ずから花を捧げ、愛を囁く。
いつか、あらゆる人類の間に壁がなくなって、なにもかもが許容されるような世界になる。
そのために、僕はいまこうして戦っている。
ねえ、ルゥ。
ずっと言いたかったことがある。
きちんと言葉にして、伝えたいことがある。
僕は君を
最初のコメントを投稿しよう!