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後編
辺境も辺境。
集配ルートから離れた場所に舟を走らせて、ようやっと辿り着いた、聞いたことのない名前の星に降り立つ。
そこからさらに移動し、指定された座標が示す位置へ向かうと、たしかにそこには建物があった。
本当に、ここなのだろうか。
男は首を傾げながらも、荷を抱えてそこへ近づく。
およそ人が住んでいるとは思えない雰囲気だった。
門扉は錆びつき、塀は崩れかけている。
事前に聞かされた情報によれば、ここを住まいとしていた男性は、当代でも上位に位置するほど、優秀な学者だったという。
デザイナーズチャイルドといわれた、指定遺伝子操作計画の後期に生みだされた彼は、ひとりでここに住んでいたそうだ。
それほどに優秀な人物が何故、世俗から離れた場所へ移り住んだのか。
諸説はあるが、どれも推測の域を出ない。
指定遺伝子操作計画とは、国家が欲する技能に特化した人間を人為的に作り出そうとしたものであり、優秀な頭脳を持つことを期待して配合された一人が、彼だ。
デザイナーズチャイルドたちには稀に遺伝子エラーが起こるが、突出した才能の前には小さな欠陥であり、短所や個性として受け入れられたという。
件の男性は主として生殖機能に欠落があり、優秀な遺伝子を持った後継者を子孫として後世に残すことが難しかった。
ゆえに、誰かと婚姻を強要されることもなく、居場所さえ明確であれば、ひとりで住むことを許容されたのだろうと思われる。
いや、たしか、身の回りの世話をするメイドを連れていたのだったか。
となれば、この手紙の受取人というのは、その人物、あるいはそれに連なる一族なのだろうと推測できたが、今もここに住んでいるかどうか疑わしい。
第一、その男が戦争に徴集されたのは、一世紀以上は前のことだ。この手紙だって、つい最近になって偶然見つかったに過ぎない。
敵方に爆撃された跡地、汚染された地の除害がようやく終わったと宣言され、慰霊碑を建てるための工事が始まったことで、それらは施設の残骸とともに地中から見つかった。
所属していた部隊の面々が残した手紙――遺書の大半は、本来の行き場を失っている。それだけの時間が、過ぎ去っていた。
それでも、探さないわけにはいかない。
男は手紙を託され、こうして誰が住んでいるかも定かではない地を訪れている。
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