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1・その後の二人
あれからぎこちないながらも一緒に暮らしているリリカとコウガ。ニックやスズキは極力二人に過去の話はしない事にしていた。二人が混乱をきたしてしまう事、そして何よりそれによりいい雰囲気になってきている二人がお互いを敬遠してしまうような事態になる事を避けていたためだ。
「リリカは料理がヘタクソだね」
シェルターに暮らす子供の一人、最年少のサンディがにべもなく夕食を一緒に作るリリカに言う。子供は歯に衣を着せる事を知らない。
「ごめんねー。今までは私どうだったの?」
苦笑いをしながら不器用にジャガイモの皮を剥くリリカが返す。
「うーん、料理はしなかったよ。おじいちゃん達が作ったから」
「あ、そうなの?」
「リリカはいなかったもん」
「じゃあ私は何をしていたの?」
「ニックやコウガと漁に行ったり畑に行ったりしてた」
「え~? 私が漁に行ってたの?」
「そうだよ。リリカはイルカみたいなの」
「イルカ? 何それ?」
リリカとコウガは覚えている事に差があった。例えばそのイルカをコウガは覚えているかも知れない。記憶はまばらだった。
「イルカだよ、イルカ。海にいるかわいい魚だよ」
「イルカは魚じゃないよ」
傍で二人のやり取りを聞いていた最年長の少年ネオが言った。
「じゃあ何なの?」
ますます分からなくなるリリカ。
「あれは哺乳類だよ。クジラと同じだよ」
「・・・・・・?」
このようなやりとりが毎日のようにポッと発生する。その都度リリカはもどかしいようなジレンマに襲われる。それが苦痛だった。
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