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その夜、リリカはベッドでコウガに聞いてみる。
「ねぇコウガ。イルカって知っている?」
「え? どうして?」
顔を近づけるコウガ。
「サンディが私はイルカみたいだったって言うの」
「似てないよ、全然」
「知ってるの? コウガ」
「ああ。イルカはイルカだよ。人懐っこい海洋生物だよ」
「・・・・・・」
なぜかコウガが知っていたことにショックを受けるリリカ。
「明日朝食の時インターネットを見せるよ。どうしたの?」
「・・・何でもない」
ゴロンと背中を向けるリリカ。
「お腹の様子はどう?」
「元気よ」
背中を向けたまま呟く。
「そう・・・よかった・・・」
何か機嫌がよくないリリカにこれ以上話しかけない方がいいと思うコウガ。頭の後ろで手を組むとそのまま目を閉じた。
「?・・・」
しばらくするとリリカがしがみついて来た。リリカはこうしないと眠れない。その習慣は体が覚えていたようだ。
このように二人は一緒に寝るが、夜の生活は無かった。コウガの方が妊婦であるリリカに気を遣ってできない部分もあったのだが、アガルタから帰ってきてからはキスもしていない。何故かできなかった。どこかお互いに疑念があるのか、それは分からない。夫婦だと言われても一歩を踏み出せない戸惑いがあったのだった。
それでもコウガは新たに出会った女性としてリリカを見ていた。素直で女性らしい振る舞いと可愛らしい顔に恋心を抱いている。だからこの気持ちを大切に育んでいた。
一方のリリカはお腹の胎児のことで頭が一杯だった。とにかく無事に元気な赤ちゃんを産むためにはどうすべきなのかと考えを巡らせていた。だから心配事やストレスは抱えないように心掛けていた。コウガの事は嫌いではない。優しく、思いやりがあって、子供たちの面倒見もいい。きっといいお父さんになってくれるのだろうとは思っている。しかし一人の男性としてコウガを見るとどうだろうか、それは自身でも答えは出せなかった。
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