1・その後の二人

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 コウガはニックと共に漁に出ていた。この生活はこれまでと変わらなかったが、大きく変化したのはコウガの性格だった。もともと生真面目でニックの行動に追従していたコウガ。それがリリカと出会って自分の宿命を知り、生死を分ける綱渡りのような体験を通してMC達のリーダーと言える頼れる青年に成長した。それがまた元の生真面目な性格にリセットされた感じだった。いや、以前よりも忠実で控えめな性格となっていた。  仕事はニックに教わりながらすぐに覚えた。船長のタケシ始めクルー達にはニックからコウガの事情を説明されていた。 「コウガ、もういいんだぞ。ランチだ、ランチ」  いつまでも絡まった網とワイヤーをほどいて整理しているコウガの肩をタケシが叩いた。 「ハイ。分かりました」 「コウガ~、こっち来いよ~」  ニックがベンチで既にランチを食べていた。その横に座って自分のバックパックから弁当を取り出すコウガ。ニックの弁当は子供達が、コウガの弁当はリリカが作っていた。コウガのボックスには不揃いにカットされたサンドイッチが並ぶ。見た目もよろしくない。 「相変わらず上手だな、リリカの弁当は」  洒落で反対の意味を言うニック。 「いえ、あまり上手だとは思いませんよ。でもいいんです」 「冗談だよ、冗談。皮肉だ皮肉」 「は? ヒニク?」 「あ、まぁいい。気にすんな」  こんな感じである。ニックは慣れた扱いをしている。昔のコウガを思い浮かべていた。兄と弟のような関係。今はコウガにとってニックは完全に上司というポジションだった。 「しょっぱいです」  一口食べたコウガは水筒の紅茶を飲んだ。 「うわっ甘過ぎです」  眉をしかめるコウガ。リリカは調味料の分量が極端だった。 「そのうちリリカも料理が上手になるよ。それまで我慢だな」  微笑むニックにコクリと頷くコウガ。
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