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 宵闇をコンソールルームに追い出し、チューニング確認用のパターンを叩いてみる。流石俺だ。ほぼ問題はない。バスドラムの共鳴が少し気になるから、もう少しだけ毛布の切れ端を追加してペダルを踏んでみる。よし、ちょうどいい。  後はマイクのセッティングだ。エンジニアはマトモなプロみたいだから、相談しながらマイクを設置する。何度か試し録りをして、ベストな配置を探る。バランス良く録れる位置を見つけ出し、ようやくレコーディングの準備が整う。  その間、宵闇は完全にいるだけの役立たずだ。録れた音の違いにも口を出さない。わからないならわからないで、こうやって黙っててくれた方がいい。  プロデューサーだ、とか偉ぶってやがるけど、こいつに音のプロデュースは出来ないだろ。  ヴィジュアルに関しては、まあこいつに任せるしかないけど、音に関してはベルノワールの中で俺が一番に違いねぇ。文句は言わせねぇよ。  練習プレイを30分程度繰り返し、体が暖まったところでインカムを通してエンジニアにレコーディングを始めてくれるように伝える。  これくらい筋肉を使ってからの方が、俺は調子が出る。太鼓達も、ちょっと使って馴染ませた方がいい音を鳴らしてくれる。  今回は3日間で3曲ってことだし、1日1曲でこなす予定だ。特に苦手なパターンもないし、もらったデモに入っていた順で録る。  今日はHate or Fate。基本的に曲自体はいいけど、アレンジが頂けなかった。この曲に限ったこっちゃないけど。  だからまぁ、こっからは俺の悪戯も入ってんだけどな。  徹底的に、ドラムパートを練り直して来てやった。宵闇が作ったくだらないデモの欠片も残してない。ドラムだけ聴いたら、別物に聞こえるはずだ。  インカムから入ってくるクリック音でカウントを刻み、打ち込みのガイドギターを聴きながら叩き出す。手加減なしで俺のスタイルを前面に押し出した手数の多いフレーズと、複雑なツーバスのパターン。今、同世代でこれが出来るのは俺ぐらいだって自負してる。尊敬する本間大嗣さんはじめ諸先輩方にはそりゃかなわねーけど、こないだまで打ち込みだったベルノワールには勿体ないレベルだ。  宵闇の作った適当なデモとは全く違う、ほぼヘヴィメタルの音。元々ベルノワールの楽曲は低音が印象的で、スピード感もあるし、キーも高いからこういう音が似合うはずだ。ヴィジュアル系でもあるだろ、本格的なメタルサウンドのバンド。Jupiterとか摩天楼オペラとかさ。これなら、ドラムだけはそのランクに追いつく。  大きなミスはなく、通しの1回目を叩き終わる。ミスはないけど、全体的にちょっと小さくまとまり過ぎたか。通しを何回か録ってから細かいところを修正して行きたい、って要望はエンジニアの方には出してあるから、2回目に行こうかとコンソールルームに目を向ける。  と、宵闇と目が合った。  叩き始める前は椅子に悠然と座ってたはずのヤツは、立ち上がってる。  お? びっくりしたか?  ニヤッと笑ってやると、ブースのドアを開けて俺の前に早足でやって来た。おいおい、話ならインカムでいいだろ。 「おい、もしかしてRiskとWheelも」  怒ってんのかな。真剣な目付きだ。でも声を荒らげたりはしないんだな。低い声。  お前が用意したシングル収録曲、3曲全部、やってやったよ。完璧だからそのままコピーしろとかぬかしてたから、全部ぶっ潰されて頭来ただろ。面白ぇ、闘ってやるよ。公式に俺の加入は発表されてんだ、もうクビには出来ない。でも俺はこの方向性を変えるつもりはない。さあ、どうするよ。 「ああ、アレンジしてあるぜ?」 「全部か」 「全部だ」  ニヤニヤしながらそう言ってやると、宵闇は体を乗り出して、俺のインカムをもぎとる。
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