2-2

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「じゃあ何の為にオーディションに来たんだ?」 「そっちこそ、これがオーディションか?」 「それなら何か叩いていくか?」 「ああ! 俺はドラムを叩きに来たんだよ!」  立ち上がり、勝手にセッティングを始める。その間、誰も何も言わずに俺を見てる。その視線は痛いほどよくわかったけど、俺は振り向かない。  セッティングを済ませ、軽く練習フレーズを叩いて確認する。問題はない。  切れ長の、黒目がちな宵闇の目をスティックで真っ直ぐ狙う。 「曲ならコピーしてきてやった。Tears for FearとExit。どっちから聴く」 「Exitを」  俺は覚えて来たその曲を躊躇なく叩き始める。  ベルノワールの曲自体は、なかなか悪くないんだ。デジタル使ってキラキラさせてるけど、基調になってる音は結構重たいし速い。メロディラインも無理はないのに印象に残る。  今回は素直にほぼそのまま…あんまりひどいとこは多少いじったけど、大筋は打ち込みと同じようにコピーして来た。打ち込みで味気なかったドラムに、俺が息を吹き込んでやる。人間にしか出来ない微かな揺れや呼吸、機械には出来ない僅かな強弱。リアルなタイム感。  ベルノワールのメンバーの度肝を抜いてやる。  度肝抜かれる程の耳があるとも思えねぇけどな。  最後のクラッシュシンバルを一撃し、絶妙なタイミングで止める。いい出来だ。  ニヤリと笑って宵闇を見てやると、ヤツは黙って立ち上がった。  背後に置いてあったベースを掴んで、肩にかける。へぇ、それお飾りじゃなかったんだ。 「Tears for Fear」  そう言って、俺に向かって顎をくいっと上げる。うっわ、偉そうに。  その曲は、ベースから入る。ためるベースのフレーズは、俺の好みだ。8小節のベースソロ。そこから、俺のドラムを被せる。  宵闇のベースは、音数が多くて、リフも細かい。俺のドラムスタイルとは結構似てるところがある。  コピーする為に聴いてる時から、それには気付いてた。  こうやってセッションしてみると、コンビネーションは悪くなさそうだ。  まあ、これならやってみるのも悪くねぇかな。こいつ偉そうだけど。  ラスサビに入る直前の、2拍のブレイク。宵闇と視線を合わせる。  ジャストのタイミングで次の音が重なる。
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