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     ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇  約束の14時に事務所に行くと、オーディションで会ったマネージャーが会議室に案内してくれた。そこで、何枚かの紙を出されて、サインを求められる。事務所に所属する為の契約書だ。これで、暫くはフリーの気楽な身分とはおさらばか。  今決まってるスケジュールを尋ねられ、スマホのカレンダーを見ながら答える。一番メインでやってたマヤちゃんは、今年に入ってスパイダーリリーってバンドに入ったから、ソロ活動は休止中だ。最近の仕事は、単発のレコーディングとか、ディスコードってメタルバンドのサポートが多い。  案外暇じゃない俺のスケジュールと、ベルノワールのスケジュールは運良くバッティングしてなくて、特に調整はいらないみたいだ。  ベルノワールのスケジュール一覧を受け取って目を通す。  今回のシングルのレコーディングの後は、フォトシューティングとMV撮影、雑誌取材にウェブラジオ、YouTube生放送。あっという間に発売日が来て、そこからのインストアイベント3連発、渋谷のテイクワンネクストってライブハウスでの2Days。 「夕くんのツイッターアカウントはこれね。パスワードは変えないで。DMに返事はしちゃダメよ」  アカウント名は「夕@BelleNoir×Drums」あーもう。「夕」で定着しちまってんのかよ。しゃあねぇな。まあ本名、優哉だし、違和感はそんなにねぇけど。  つーか、ツイッター? 俺に「今日の夕飯は鍋」とかやれって? めんどくせぇな。 「へーい…」  お人気様は大変なんだな。俺、付き合い切れるかなこれ。 「ツイッターはなるべく毎日投稿してね」 「ええー、そんなネタねぇよー」 「何でもいいのよ。自撮りも多めに」 「はぁー? 自撮りとかしたことねぇし!」  これがヴィジュアル系ってことか。結構しんどいぞ、これ。ドラム叩く以外にやること多過ぎるだろ。音楽と関係ねぇし。 「あれは練習ね。頑張って」  マネージャーはそう言って微笑み、カチャリと音のしたドアに目をやる。俺もつられてそっちを振り向くと、黒ずくめにサングラスをかけた宵闇が入って来た。 「おはよう。ちゃんと来たな」 「まあな。で、カメラテストってどこで」 「隣の部屋で撮影する。衣装はそこだ」  宵闇が指さした先を見ると、黒くてずるずると長い衣装がハンガーにかかっている。鋲とかチェーンとかも付いてて、銀ラメのメッシュなんかもちらちらしてる。  よくわからんけど、えらく動きにくそうだ。 「何だこれ」 「後で採寸して、お前の衣装は作る。これは朱雨が前に着てた衣装だ」 「俺のは動きやすくしてくれよ」 「ライブ衣装はまた別に考えてやる」  ってことは、撮影なんかはこんな感じになるってことか。 「メイクは自分でするか?」 「やったこともねぇよ」 「じゃあ、今日のところは俺がやってやる」 「そうしてくれ」  宵闇はサングラスをはずしながら、机の片隅にあったトランクみたいな箱を持って、俺の前にパイプ椅子を置く。
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