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秋の再会
大学三年生の秋。学生は勉強をするべきはずなのに、ついつい遊んでしまう時期。もしくは、バイトに打ち込んで何かの為にお金を貯めている時期。
そんな時期に俺は、高校の友達と会うことになった。
そう、俺の部屋で。
「お前……高校生だったときに、酷いいじめを受けてたよな……」
「どうしたんだよ、急に……それはもう済んだ話だろ?」
さっきまで、冗談話とかで盛り上がってたのに……興醒めだな……。
「……そうだな……そういえば、新しい彼女はできたの?」
「やめろ、その話を持ち込むんじゃない」
「お前、まだ立ち直れてないのかよ~。」
さっきのはなんだったんだ?
まぁ……どうでもいっか……。
それより……こいつ、いつかぶん殴ってやる。
いや、実際には殴らないんだけどさ……。
そんなことは置いといて……俺は輝喜の言う通り、あの別れからまだ立ち直れないでいた。三年も経っているのにな……
「もう諦めろ。どうしたってあの子は戻ってこないぞ?」
「うるせぇ。」
お酒の代わりにコーラをぐびっと飲んだ。炭酸が喉を焼いているのかというぐらい、喉が痛い。ああ、お酒が飲めたらなぁ。ていうか、炭酸を一気に飲むとこんなに喉が痛くなるなんて知らなかった……
「大体さぁ、どうしてあの子にこだわるんだよ。お前、巨乳の方が好きじゃん。あの子は貧乳だろ? そう考えると、余計に意味が分からねぇよ。」
「殴られたいんだったら、素直に殴ってくださいと言った方が身のためだぞ……輝喜。」
やっぱり殴る。顔面を殴る。拳で殴る。思いっきり殴る。
「ごめんって、冗談だよ。波留、お願いだからその拳を収めてくれないか。それと殺気まで出さないでくれ、お願いだから。」
まぁ、拳は収めてやろう。
「次からはちゃんと、殴ってくださいと言えよ。」
「はいはい、分かりましたよ。」
こいつ、反省の色が見えない……
まぁ、形だけでも謝ったから良しとしよう。
「お前が、あの子のことが好きなんだってことは十分に分かったよ。」
「別に好きじゃねぇし、嫌いだし。」
「いやいや、そこは素直になりなさいよ。」
まぁ、確かに好きだけどさ……
「じゃあ、波留があの子のことをまだ、好きだとする。でも、あの子とは別れた。それなのに波留は諦めきれていない。波留がそこまで執着するような人間でないことは、俺が一番よく理解しているつもりだ。どうして、波留は諦められないんだ? あれから、三年も経ったんだ。教えてくれたっていいだろ?」
珍しく、輝喜が真剣に質問している。
まぁ、こいつにだったら話してもいいか。
「俺さ、約束したんだ。いつか教えてくれって。」
「何を?」
「静香さんが、俺と別れたいと言った理由だよ。」
そう、約束をした。
「なんでそんな約束したんだ。」
「諦めきれなかったんだ! 何も教えてくれなかった……俺が悪いとしても心当たりがない。そんなの、理由が知りたいに決まってるじゃんか!」
テーブルにコップを叩きつけた。
コップを壊してしまうんじゃないかという勢いで叩き付けた。
まぁ、プラスチック製だから壊れないんだけどさ……
「いや、落ち着けよ。プラスチック製のコップに怒りをぶつけたって意味がないぞ? どうせ、叩きつけたって壊れないんだから。」
それ、さっき思ったことなんだけどなぁ。
「理不尽な怒りをコップにぶつけたのは、分かっているつもりだ。だけどさ、それぐらいに理由が知りたいんだよ。諦めきれないんだよ。静香さんのことをさ……」
「……もう一度、聞く。なんで、静香のことを諦めきれないんだ?」
やっと、「あの子」ではなく、「静香」と呼んでくれた。
これなら、本当の理由を言っても良いかな。
俺が、諦められない理由、それは……
「あい……」
「ちょっと待った!」
「いやいや、何でだよ! 何で止めたんだよ! 今、めっちゃ良いシーンになる感じだったやん! 物語で言うなら、めちゃ盛り上がるシーンじゃん! 止めちゃいけないでしょーよ!」
「お前の持論は知らんが……波留はここでその言葉を言ってはいけない気がする! それは、静香の前で言うべき言葉だろ!」
「くっ! た、確かに……」
正論を言われてしまった。
畜生、言い返すことができない!
いつもこいつには負けてばっかりだ。
口論でも、運動でも、成績でも! 負けてばっかりだ……
「とにかく、今から会ってこい! そして理由を聞いてこい!」
そう言うと輝喜は突然スマホを取り出し、誰かに電話をし始めた。
「よう! 久しぶり! 元気にしてたか? ……うん、そうなんだよ! よく分かったな! ……とりあえず、ごちゃごちゃ言ってないで、いつもの場所で会えば良いじゃん……よし、決まり! じゃあな!」
今、何が起きた?
展開が早すぎてついていけないんだけど。
「いつもの場所に行ってこい。静香が待ってる。」
「え? マジ?」
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