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夏にお別れ
高校三年生の夏。受験勉強をしてない奴はそろそろ焦る時期。もしくは、勉強とお別れして就職活動をしようという時期。
そんな時期に俺たちは、別れることになってしまった。
そう、いつもの場所で。
「……別れよう。」
「え?」
突然、どうしたんだろう。なんで、どうして別れなければいけないんだ?
「俺、なんか悪いことしたかな?」
「まったく、これっぽちもしてない。」
それなら、なおさら分からないよ。
「別れたくないよ……静香さん。」
「別れなきゃいけないの……。ごめんね……波留君。」
こんなわがままは、通じるはずがない。そう思ってはいたが、わずかな希望を託して言った。なのに、あっさりと断られてしまった。
「せめて、理由だけでも教えてくれないかな?」
理由を知りたい。どんな理由でもいいんだ。もし、教えてくれたなら、諦めがつく。
「やっぱり、なんにも知らないんだね。波留君は。」
「なんか……ごめん。」
やっぱり、何か悪いことでもしてしまったんだろうか。
今までも、俺が原因だったりするけど、そのたびに気づいて謝ってきた。だけど、今回に関しては全く身に覚えがない。
「謝るのは、私の方だよ。ごめんね、波留君。悪いのは私なんだ。そう、私がいけないことをしてしまったの……。」
「そっか……いつでもいいから、理由を教えてね。静香さん、これは約束だよ?」
「うん……ありがとう。約束するよ。波留君……」
その後の言葉は聞きたくなかった。でも、聞こえてしまった。
「さようなら」
静香さんは、言い終わった後に涙を流していた。
どんな涙なのかはわからない。
悲しい涙? 嬉しい涙?
分からない……分からないけど……
少なくともさ、俺は痛かったよ。
その涙を見たとき、胸が痛くなったよ。
「約束、忘れないでね……静香さん。」
きっと、この声は、静香さんには届かなかったんだろうな……
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