<震え>

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<震え>

 屋外にある物置を漁れば、そこから私が必要とする何かが出てくるとは数えきれないほど経験済みだ。  さて、扉には鍵がかかっているのは当然であろう。それでもなんとかしてこじ開ける必要があった。  猛吹雪の夜だ。多少ガタンゴトンと外で物音を立てても家の者は気にはすまい。気にしたところで様子を見に来るのは早くても翌朝か、そうでなくとも吹雪が止むまではまずない。そのようなことも数えきれないほど経験済みだ。  ところが、私の経験則に反して、その家の外にある物置の扉は簡単に横に滑った。鍵がかかっていないとは珍しい。つまり、ろくな物がないということでもあるのだが、穴の開いていない長靴があればいいが。  私は雪を身にまとったまま物置の中に身を滑らせた。足元がきれいな土に変わると、ボタボタと雪がそこに落ちた。物取りに入られた証拠を隠滅せねばなるまい。追われる身となっては少々面倒だ。  私は足元に落ちた雪を足の裏で散らした。これで数時間後にはうまく蒸発してくれているだろう。  では――と私は物置内の物色を始めた、その瞬間、近くでガタっと物音がした。  恐怖など感じない私でも突然のその物音には一瞬びくっと身を震わされた。  風が生み出す音ではなかった。生き物が何かを動かした音だ。  あそこに何者かいる。  外は厳寒の世界だ。この時期に家の外の物置なんてネズミでも住み着きはすまい。  ざざっと何かを引きずって後ずさる音がした。  暗かったが、私の目はそれを見ることは可能だった。
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