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<窓明かり>
白い雪が死の踊りを舞う暗闇の中で、光点が一つぽつんと滲んだ。
ああ、光だ。
私はその光を求めて、孤独に夜を歩いて来たのだ。
私が求める光とは、人の住む家の窓明かりだ。
こういう体になる以前の記憶によるものなのか、私は窓明かりを求めて夜の世界をさまよっていた。
私は自分が人間の姿をしていない、自分がおぞましい姿ということを自覚していた。
だから、野外から人の住む家の窓明かりを見ていればいい。
窓明かりとは小さな光だったが、あそこには暖炉の暖かさも人の温もりもある。
かつて私が手にしていたもの、私が失ってしまったもの、私がもう取り戻せないもの、すべてがあの小さな窓明かりの向こう側にはある、あるのだろう。
私は見ているだけだ。逆に、窓明かりの向こう側にいる者に私の姿を見られてはいけない。
私がここまで生きてこられたのは、その戒律を抱いていたからだ。
だが、今だけは戒律の湧き上がるのを抑えよう。
私は自分が身にまとう衣服がボロボロになってきたので、ここらで衣服を新調しようと、窓明かりを放つその家に近づいた。
身だしなみを整えたいという洒落っ気などはなく、ボロボロの衣服や靴では歩きにくいからだ。生きるための手段と目的のみが私を機敏に動かす。
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