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「こんな俺を、嫌いになったの?」
彼は息を切らしながら悲しそうに聞いてきた。
「そう……じゃ、ないよ。」
彼女は、俯きながらも答えた。
「じゃあ、嫌な思いをさせた?」
彼は不安そうに、謝るように私に聞く。
彼女は弾かれたように顔をあげた。
「ちがう!嫌いになんかっ!……私が、私が、好き勝手連れ回したせいで、あなたの病気を悪化させた!私を見ることもそんな私を好きなこともあなたにとってはつらいのに!嫌な思いをさせてたのは私の方!」
病室で別れを告げられた時、遠くばかりを見て俺を見ていなかったのに、彼女は、今、俺を見て感情を顕にしている。
彼の目尻に涙が揺らいでいる。
黒目の比率の高い瞳、栗毛色の肩までかかる柔らかい髪。
色白の肌に赤らいだ鼻と眼。
淡いピンクの唇の間から少しだけ見える歯。
優しそうな細い眼と撫でた時に感じた見た目よりもサラサラの髪。
彼女は、彼は、出会った時と同じだった。
”ああ、やっぱり、好きだ。”
最後の1歩を踏み出して、俺は彼女を腕いっぱいに抱きしめた。
心臓の鼓動が私にも振動するくらい強く強く抱きしめられた。胸が苦しい。
”息が出来なくなりそうだった。”
”ずっと一緒にいたい。”
”「遠くへ行かないで。」
そう言ったつもりだったが、声になっていなかった。”
俺の口からは、ヒュッと苦しそうな息が口から出ただけだった。
彼の腕の中で、私は少し苦しそうに動いたが彼は構わず抱きしめ続けた。
” 霧の中から静かにゆっくりと、しかし、確かに、朝の光が広がっていく。”
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